目次
第1部 人文学とは何か
Ⅰ 人間と文化――人間は文化的な存在である
1 人間と文化との一般的関連
2 人間の「話す」行為と文化
3 人間の「作る」行為と文化
4 人間の「行なう」実践行為と文化
Ⅱ 人文学の学問的成立と展開
1 ルネサンスの人文学とその源泉
2 ローマ的な古代の遺産としての七つの自由学科
3 エラスムスと自由学科
Ⅲ エラスムスの源泉志向
1 新約聖書の序文を書くエラスムス
2 「キリストの哲学」の提言
3 「キリストの哲学」の中心思想
4 「理性よりも生の変革である」
5 「良いものとして造られた自然の回復」
6 聖書主義の神学
Ⅳ 人文学による自己形成――エラスムスの場合
1 ステインの修道院における人文学の学び
2 『反野蛮人論』とその構成
3 「良い学問」としての古典文化
4 キリスト教と古典文化の統合
5 予備学としての人文学
6 ヒューマニストから聖書人文学への転身
Ⅴ 基礎経験から思想への発展――ルターの場合
1 基礎経験としての試練
2 基礎経験から思想へ
3 ルターの創造的精神
4 宗教改革の社会的生産性
Ⅵ テクストとの対話――知恵は聞くことにある
1 精神の老化現象
2 知恵は聞くことにある
3 聞く二つの態度,承認と受容
4 聞くことから和解が生じる
5 テクストとの対話
6 ルターにおける「省察」の意義
7 実存の変革かそれとも破滅の変身か
第2部 研究と教育のアドバイス
Ⅰ 研究はどのように行われるべきか
はじめに
1 基礎ゼミの演習と実例
2 卒業論文の書き方
3 修士論文の書き方
4 博士論文の書き方
Ⅱ 講義の準備と研究発表
1 講義の準備と実行
2 研究発表
3 翻訳の仕事
第3部 わたし自身の経験から
Ⅰ 青年時代の読書体験
1 中高時代の読書の思い出
2 ヨーロッパ文化研究に駆り立てた二つの要因
3 大学時代の読書
4 大学1年生の夏休みと読書の思いで
5 知的回心――大学2年生の読書体験
6 職業的な読書法
Ⅱ 文学作品の読み方
1 ゲーテの『ファウスト』物語
2 ドストエフスキー『悪霊』物語
3 漱石の『こころ』物語
Ⅲ 人文学の学習法
1 フレッシュマン精神
2 千里の道も一歩から
3 外国語の習得法
4 大波小波――ラテン語との格闘の日々
Ⅳ 人文学研究の喜び
1 仕事と安息
2 キリスト教古代への関心
3 ドイツ留学の思い出
4 人文学研究の成果と喜び――学部1年次生から今日までの歩み
あとがき
内容説明
人間とは何か。文化とは何か。人文学は人間と文化との関連を追求し,人間を文化的存在として考察する。
著者は人間を〈文化を形成する行為的存在〉として捉え,その行為の三つの基本運動「話す」「作る」「行なう」を通して,人文的な精神の意義を解明する。
「文化」とは,人格としての教養,趣味の育成と洗練,さらに生活の改善を意味し,人間的に調和した円満な人格と教養を意味する。また文化の客観的側面として個人の教養と生活から生まれ,遺産として継承される特定社会の生活様式全体とその伝統を意味する。そこでは知識・信仰・芸術・道徳・法律・習俗や習慣など,個人を超えた生活様式の巨大な集積と伝統が形成される。人文学はこれら多様に展開した歴史や現代的課題に対し,個人の関心と時代の要請に応える営みである。本書では近代の人文主義的ヒューマニズムの巨人エラスムスを中心にその要請に応えた。
60年以上に渡りヨーロッパ思想史の人文学研究に携わってきた著者が,読書,学習,研究,教育の経験を踏まえ,それぞれの局面で出合う多くの困難と楽しみを伝えて,読者やこれから研究を志す人びとに役立つことを念頭に人文学を紹介し,エールを送る。
技術が先端化し社会がその巨大な影響に曝されている中,「人間が善く生きる」ための学びの場として,人文学のもつ豊かな可能性が示されよう。若人よ,いざ旅立たん!