目次
第一章 思想史の裏街道――轍の跡
1 思想史とは何か
2 〈表街道〉と〈裏街道〉の違い
3 思想史の隠れた水脈
4 ホモ・ヴィアトール(旅する人)
5 轍の跡を振り返って
6 レッシングから波及・連鎖する探求の旅
7 「ヘン・カイ・パーン」の地下水脈
8 キリスト教思想史の隠れた水脈
9 思想史を「旅する人」
第二章 フィオーレのヨアキム――「第三の時代」と「永遠の福音」
1 ヨアキム研究の初歩
2 ヨアキムの主要著作
3 ヨアキムの生涯
4 ヨアキムの幻視体験
5 三部作――『黙示録註解』『調和の書』『十弦琴』
6 《霊的理解》による歴史観と終末論
7 歴史の三段階と数理性
8 歴史の三位一体的構造
9 「第三の時代」と「永遠の福音」
むすびにかえて
第三章 セバスティアン・フランク――孤独な個人主義者の「第四の信仰」
1 生い立ちと牧師としての原体験
2 「第四の信仰」と「見えざる霊の教会」
3 非党派的キリスト教の唱道
4 『歴史聖書』――プロテスタント初の歴史的自己認識の書
5 『歴史聖書』における終末論的モティーフ
6 『パラドクサ』は終末論を撥無したか?
7 『パラドクサ』における「中間時」の思想
8 「時宣を得ない熱狂」と「隠れた神」
むすびにかえて
第四章 ゴットホルト・エフライム・レッシング――「ある偉大な,慈悲深い君主のいとしい庶子」のキリスト教
1 レッシング受容の問題性
2 生い立ちと若き日のエピソード
3 キリスト教を「賢明に疑う」
4 モーゼス・メンデルスゾーンとの友情
5 ニコライ教会広場の屋根裏部屋
6 正統主義とネオロギーに対する二面闘争
7 「観照のキリスト教」と「実践のキリスト教」
8 反ゲッツェ論争と『賢者ナータン』の誕生
9 真理探求者レッシングの面影
10 キリスト教思想家としてのレッシング
むすびにかえて
第五章 フリードリヒ・シュライアマハー ――信仰と学問の「永遠の契約」
1 シュライアマハーは多くの顔をもつ
2 シュライアマハーとヘルンフート兄弟団
3 ベルリンにおける出逢いと別離
4 ヘーゲルの思想形成
5 両雄並び立たず
6 『信仰論』への対向措置としての「宗教哲学講義」
7 ヘーゲルの党派性とその波紋
8 「永遠の契約」か「和解」か?
9 バルトはシュライアマハーを乗り越えたか?
むすびにかえて
第六章 カール・クリスティアン・フリードリヒ・クラウゼ――忘却された哲学者の「万有在神論」
1 生い立ちと修業時代
2 フリーメイソンに対する期待と幻滅
3 ベルリンでの挫折とショーペンハウアーとの交流
4 ゲッティンゲン大学での日々
5 「ゲッティンゲン市民蜂起」の余波
6 クラウゼの主要著作
7 クラウゼの「万有在神論」
8 Orwesen(全体的存在者)とUrwesen(本源的存在者)
9 「忘却された哲学者」の名誉回復に向けて
むすびにかえて
第七章 エルンスト・トレルチ――「すべては揺らぎ倒れつつある」
1 神学者としての軌跡
2 歴史哲学者としての横顔
3 「不断に新しい創造的総合」――神学と歴史哲学を結ぶ環
4 トレルチ畢生の根本問題
5 歴史主義の内在的超越の取り組み
6 現代的文化総合を支える「エネルギッシュな有神論」
7 「歴史によって歴史を克服する」とは?
8 信仰者・神学者・宗教家としての苦悩
9 複眼的思想家としての真骨頂
10 Kompromiß の思想の形而上学的背景
11 中断された生――トレルチ的遺産をいかに継承するか
第八章 ラインホールド・ニーバー ――「平静の祈り」
1 ドイツ移民としてのニーバー一家
2 「サラブレッドのなかに紛れ込んだ雑種犬」
3 ニーバー神学の原点としてのデトロイトでの牧会経験
4 ニューヨークのアカデミズムへの進出
5 アースラおよびボンヘッファーとの出会い
6 ラインホールドとリチャード――「二頭立ての二輪馬車」
7 「平静の祈り」にまつわる問題性
8 「謙遜のセンス」と「『恵み』の果実」
9 ニーバー兄弟の神学的遺産
むすびにかえて
付録 ベルリン墓標めぐり
1 ハッケシャー・マルクト――森鷗外のベルリンでの三度目の下宿先
2 旧ユダヤ人墓地――モーゼス・メンデルスゾーンの墓標
3 ゾフィーエン・キルヘ墓地――レオポルト・フォン・ランケの墓標
4 ドロテーンシュタット墓地――フィヒテ,ヘーゲル,ベーク,ブレヒト,ボンヘッファーなどの墓標
5 インヴァリーデン・フリートホーフ――トレルチの墓標
6 ハレシャー・トーア墓地――メンデルスゾーン一家,ヘンリエッテ・ヘルツ,ラーエル・ファルンハーゲンなどの墓標
7 ベルクマン通り墓地――シュライアマハーの墓標
8 旧聖マティウス教会墓地――グリム兄弟とハルナックの墓標
むすびにかえて
あとがき
参考文献
索引(人名・事項)
内容説明
キリスト教思想では,アウグスティヌスやトマスなど主要な研究対象になる思想家もいれば,フィオーレのヨアキムやクラウゼのようなあまり知られていない思想家もいる。
本書は無名の思想家に光をあて,知られざる思想上の貢献を紹介し,またレッシングやトレルチ,ニーバーなど周知の思想家についても,見過ごされてきた側面に注目し,思想史上の新たな意味を掘り起こす。本書で考察する7人の著作家の位置づけ,その特徴と系譜を独自の視点から結び合わせ,そこに潜んでいる隠れた連関を浮かび上がらせて,新たな思想史を提示する。
著者の研究の出発点であるラインホールド・ニーバーを通してフィオーレのヨアキムに出逢い,またトレルチ研究によりトレルチ『社会教説』のニーバー兄弟への強い影響を確認するとともに,トレルチがセバスチャン・フランクのスピリチュアリスムスに注目しているのに喚起され,フランクを将来の研究課題とした。またシュライアマハーとトレルチは,19世紀ドイツの学問的神学の第一走者と最終走者として重要なカウンターパートであったことを明らかにする。さらにレッシングのスピノザ的汎神論への興味からクラウゼの万有在神論の概念に出合い,そしてフランクとレッシング,クラウゼが一本の線でむすばれた。
著者の広範な関心と独自の知見が,読者をキリスト教思想の新たな魅力に誘う注目の一書である。