目次
序論
1.エルンスト・トレルチという人物
2.研究史概観および本研究の課題
2-1.国際的な研究状況
2-2.日本国内の研究状況
2-3.本書の課題
3.本書の方法論――「神学史」について
3-1.はじめに
3-2.宗教教育における「神学史」
3-3.包括的な歴史的神学分野としての「神学史」
3-4.個別専門研究の方法論としての「神学史」
3-5.研究プログラムとしての「神学史」
3-6.「神学史」の課題
3-7.本書における「神学史」
4.本書の構成
第Ⅰ部 歴史に開かれた本質探究を目指して――トレルチ思想の体系と展開
第1章 人格性を救うために――世紀転換期のドイツ・プロテスタンティズム
1.世紀転換期のドイツ・プロテスタンティズムにおける「前衛」としての宗教史学派
2.人格性の危機
3.人格性を救うために
4.歴史的思考と人格性
第2章 「倫理学の根本問題」とトレルチの思想体系
1.はじめに――「倫理学の根本問題」の意義
2.キリスト教倫理と近代
3.ヘルマンの倫理学に対する批判
4.倫理学と歴史哲学
5.「倫理学の根本問題」における体系
第3章 トレルチの思想展開における「本質」概念の意味
1.はじめに
2.本質論とトレルチの思想体系
3.素地と原理――本質論の原型として
4.本質から総合へ?
5.トレルチ思想における本質論の意義
第4章 共同体論の基礎としての宗教的アプリオリ
1.はじめに
2.トレルチにおける「宗教的アプリオリ」の意味
3.「宗教的アプリオリ」をめぐる論争状況
4.宗教的アプリオリの形而上学的根拠
5.『社会教説』における3類型と「宗教的アプリオリ」
6.「自由キリスト教」の構想における国家と個人,および民族性
第Ⅱ部 第一次世界大戦とエルンスト・トレルチ
第5章 リベラル・ナショナリストとしてのトレルチ
1.はじめに――「リベラル・ナショナリズム」という視点
2.自由の類型論――ドイツ的自由の意義
3.自由の形而上学
4.全体への献身としての自由
第6章 「学問における革命」に対する期待と懸念
1.はじめに――学問の危機,あるいは学問の革命
2.マックス・ヴェーバーの学問観
3.ゲオルゲ・クライスによる「学問における革命」の要求
4.「学問における革命」に対するトレルチの評価
5.「学問における革命」とプロテスタンティズム批判
6.おわりに――生の営みとしての学問
第7章 第一次大戦と新たな神学の動向――キリスト教思想における前衛と後衛
1.神学的前衛(アヴァンギャルド)への関心
2.「後衛」という視点
3.神学的後衛としてのトレルチ
4.後衛戦におけるブセットとトレルチの共闘
5.おわりに――「後衛」の可能性
第Ⅲ部 未来へと向かうための歴史的思考
第8章 保守革命とトレルチ
1.はじめに
2.ヴェルナー・ゾンバルトの保守革命論
2-1.近代資本主義の終焉?
2-2.ドイツ社会主義
3.保守革命という視点
3-1.分析概念としての「保守革命」
3-2.トレルチにおける「保守革命」の用法
4.トレルチのシュペングラー批判
4-1.『西洋の没落』第1巻への書評(1919年)
4-2.『西洋の没落』第2巻への書評(1923年)
5.保守革命に抗するために
5-1.歴史主義の危機とシュペングラー
5-2.歴史主義と共同体論
6.おわりに
第9章 コンサヴァティヴとリベラル
1.はじめに
2.「コンサヴァティヴとリベラル」の概要
2-1.社会主義と共産主義
2-2.ゲゼルシャフトとゲマインシャフト
2-3.非合理主義の意味するもの
2-4.ユダヤ教におけるコンサヴァティヴとリベラル
2-5.合理主義の必要性とその限界
2-6.神学と宣教
3.歴史主義との関係
3-1.「3つの重要な認識」と「歴史による歴史の克服」
3-2.ヨーロッパ主義
4.おわりに
第10章 未来へと向かうための歴史的思考――トレルチの「構成」の理念
1.はじめに
2.「歴史によって歴史を克服する」というスローガン
3.「3つの重要な認識」とAufbauの理念
4.現在的文化総合,普遍史,構成の理念
5.歴史哲学における「構成」の意味
6.歴史的思考と未来形成歴史哲学の二面性
終章
あとがき/参考文献/索引(人名・事項)
内容説明
トレルチ(1865-1923)は26歳でゲッティンゲンにて教授資格を取得以来,時代を代表する神学者,歴史家としてキリスト教神学,宗教哲学,歴史哲学,宗教社会学など多領域にわたり多くの業績を残した。
本書は世紀転換期から1910年代前半のドイツ・プロテスタンティズムの状況とそこでのトレルチの位置づけ,さらに第一次世界大戦の勃発と敗戦,ドイツ帝国の終焉とヴァイマール共和国の成立という波乱の時代の中で格闘する彼の思索と時代診断に関わる「歴史的思考」の意味を中心に考察する。
彼は「歴史的に物事を考える」ことを重視し,「歴史的思考」の探求こそが望ましい共同体を形成する基盤であり,危機に瀕している人格性を救出し,規範的価値を獲得する手段であることを明らかにした。
トレルチは弁証法神学が盛んな中で「挫折した神学者」として正当に評価されてこなかったが,1981年のエルンスト・トレルチ協会の設立を機に「トレルチ・ルネサンス」とも呼ばれる再評価がなされ,膨大な実証的・主題的研究が展開した。しかし全体にわたる考察は乏しく,本書はトレルチ思想の全体像を一貫した新たな視点から探究した意欲的な試みである。