目次
第一章 『この世にたやすい仕事はない』――〈労働者になる〉ための文学的レッスン(田中 綾)
1 文化を学び,社会,そして世界に
2 文筆労働者から見る,非正規労働者の現在
3 「学生アルバイト短歌」
4 「労働基準法」を短歌形式で言語化
5 「プレカリアート文学」
6 〈兼業作家〉を経た,専業作家・津村記久子
第二章 悪を旅する――ハンナ・アーレントのアイヒマン論と良心の問題(佐藤貴史)
1 ダークな思想文化を学ぶ
2 ダークツーリズムとしての思想文化
3 ハンナ・アーレントの生涯
4 思考を停止すること――アイヒマンの行為
5 思考を開始すること――残された人間の責任
6 ダークな世界と繋がる/繋がらない
第三章 フランス革命前後の主権のあり方を考える――歴史学からのアプローチ(仲松優子)
1 主権の歴史性に向き合う
2 アンシアン・レジーム期の主権とは
3 政治参加の限定性と議会制度改革
4 フランス革命とその限界
5 主権をめぐる歴史と現在の社会
第四章 非国家社会における戦争と平和――アイヌ社会の緩衝機能を探る(手塚 薫)
1 教養の復権
2 文化接触のダイナミズム
3 チャシの出現とその背景
4 ヨーロッパ人のアイヌ観
5 狩猟採集民社会の特性
6 暴力頻度の減少
7 緊張を緩和するメカニズム
8 共感の拡張
第五章 AI時代のメディア論――マクルーハンの理論の現代的意義(柴田 崇)
1 身体論的メディア論の冒険
2 「拡張」の系譜
3 「延長」の系譜
4 「外化」の系譜
5 適用
6 身体――このあまりに人間的なフレーム
第六章 津波地名の継承と活用可能性――過去と繋がる,未来へ繋げる(村中亮夫)
1 津波地名への地理学的接近
2 研究の方法
3 地図上での位置特定
4 津波地名の行方を追う
5 津波地名の特徴を考える
6 過去から現在,未来へ
世界と繋がる,文化を学ぶ――もっと先へ人文学をすすめよう(佐藤貴史・仲松優子・村中亮夫)
人文学をはじめるためのブックガイド
内容説明
多くの学生たちが歴史,文学や,思想,社会学などを学んでいるが,これら人文学を学ぶ意義とは何か?
著者たちは講義の経験や現実問題を意識しながら,日本近現代文学,思想史,フランス近世・近代史,人類学,メディア論,地理学を通して,学生アルバイトとワークルール,アイヒマン裁判の意味,そしてフランス革命と主権,アイヌ社会と暴力,さらにAI社会の未来や,過去の津波被害と地名の関連など具体的な研究を紹介し,人文学の多彩な事例を踏まえて,文化を学び,世界と繋がる道を示す。
グローバル化が進行する中で,私たちは変化し続ける文化と不確実な世界で,既存の形が崩れてゆく液状化した時代を生きている。自らのキャリアを主体的に形成し,現代社会が直面する課題に「文化」の視点から応え,他者と共に創造的な未来を切り拓くために,文化や世界をどのように語りうるのか? 今日,人文学への期待は高まっている。
福島原発事故に象徴される,人間が生み出す技術や制度,価値を制御できない状況が広がっている。私たちが未来に向けてなすべきこと,今,それが問われている。