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パイデイア(上)

ギリシアにおける人間形成

パイデイア(上)
著者 W.イェーガー
曽田 長人
ジャンル 歴史
教養
シリーズ 知泉学術叢書
出版年月日 2018/07/10
ISBN 9784862852762
判型・ページ数 新書・864ページ
定価 本体6,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序文

序論 人間の教育史におけるギリシア人の位置付け
  共同体の事柄としての教育
  文化・歴史の開始
  パイデイア,文化の独自性
  自由・自然の重視
  芸術・哲学における形式・法則の重視
  人間中心主義(フマニスムス)
  政治的な本質としての人間
  教養の歴史としての文学

   第Ⅰ部 初期のギリシア

貴族とアレテー
  教養史のライトモチーフとしてのアレテー
  ホメロスのアレテー概念―英雄的な勇敢さ
  貴族の身分道徳―廉恥(アイドース)と因果応報(ネメシス)
  教育目標としての,言行におけるアレテー
  アレテーの真の成就としての「度量の広さ」
  自愛の発露としてのアレテーへの努力
ホメロスの貴族文化と教育
  成立年代,著者,編集への問い
  二大叙事詩の描写の特徴
  『オデュッセイア』と精神的な徳
  高尚な人倫と伝統の担い手としての女性
  アキレウスの教師ポイニクス,英雄の教師ケイロン
  神話上の範例(パラデイグマ)の使用
  アテナとメンテスによるテレマコスへの教育
  模範が備える教育上の意義
  模範から範例(パラデイグマ)を経て「善のイデア」へ
教育者としてのホメロス
  ギリシアの人間性の第一人者としてのホメロス
  現実的な生と哲学的な認識に対する詩情の優位
  ホメロスの叙事詩の比類なさ
  神話上の模範と範例(パラデイグマ)に基づく警告・鼓舞
  叙事詩の理想化する傾向
  英雄による最高のアレテーをめぐる闘争(アゴーン)
  英雄アキレウスの物語
  迷妄(アーテー)の最中における運命の形成者アキレウス
  人間的なものと神的なものとの関連
  ギリシア人の思考の人間中心的な性格
  ホメロスの登場人物の彫塑性
ヘシオドスと農民階級
  へシオドスによる労働への高い評価
  農民の代弁者,地方の自立性
  神話がヘシオドスへ及ぼした影響
  正義への情熱的な信仰
  神話的な伝承への体系的な接近
  民衆における神話上の範例(パラデイグマ)としての寓話(アイノス)
  正義の観念と労働の観念との結合
  アレテーが教授可能かという問い
  仕事と生の経験という宝庫
  ギリシア民族の教師ヘシオドス
スパルタの国家教育
 教養の形態と類型としてのポリス
  ギリシア教養史の社会的な枠としてのポリス
 前4世紀におけるスパルタの理想と伝承
  スパルタに関する文学的,歴史的な資料
  模範としてのスパルタ像
  パイデイアの本質とスパルタの理念
  テュルタイオスによるスパルタ軍の鼓舞
 テュルタイオスによるアレテーへの呼びかけ
  テュルタイオスのエレゲイアーの教育的性格
  英雄的なアレテーから祖国愛の英雄主義へ
  祖国に殉じた戦死者への尊敬
  優れた法秩序(エウノミアー)を基礎付ける思想上の形式
  テュルタイオスの全ギリシアと後世への影響
  イオニア芸術のスパルタへの影響
法治国家と市民の理想
  イオニア都市国家の特徴,歴史・社会上の変化
  成文法と平等な法の要求
  アレテー一般としてのディカイオシュネーへ
  徳の包摂概念としての正義
  体操および芸術に関わる競争(アゴーン)
  ギリシアの教養の一段階としての法律
  貴族の精神形式の市民階級への転移
イオニア・アイオリスの文芸と個人の自己形成
  政治的なものから離れた経験という新たな領域
  自らの内的な法則の発見
  英雄的なものの自然的なものへの変形
  非難の詩歌(プソゴス)の代表者アルキロコス
  イアンボス調の詩の社会的機能
  イアンボスの諷刺詩から教訓的なものへの移行
  運命(テュケー)と人間の自由との関連
  確固とした限界付けとしてのリズム
  ポリス生活の補足としての快楽主義的な詩情
  快楽主義的な詩情における反省に基づく教訓
  サッポーによる新たな内面性の世界
  魂の力を解放するエロスによる人間形成
ソロンと,アテナイにおける政治的な教養の開始
  アッティカの教養の支柱ソロン
  貴族支配下の,イオニア精神との出会い
  秩序の女神(エウノミアー)とディケー
  運命の摂理としての迷妄(アーテー)から人間の自己責任へ
  ディケーによる信賞必罰
  支配的なモチーフとしてのバランスの回復
  共同体と個人の結合
哲学的な思考と世界の秩序(コスモス)の発見
  宗教的世界像の合理化としてのギリシア哲学史
  イオニア哲学者固有の精神のありよう
  根源の自然への問い
  地球像と世界像――アナクシマンドロス1
  無限定なもの(アペイロン)――アナクシマンドロス2
  世界の秩序(コスモス)の内的な発見――アナクシマンドロス3
  事物の原理としての数――ピュタゴラス1
  音楽・数学と教育――ピュタゴラス2
  調和・適切さという思想――ピュタゴラス3
  アポロンとディオニュソス――ピュタゴラス4
  優れた法秩序(エウノミアー)の原像と世界(コスモス)――クセノパネス1
  哲学的真理と人間的アレテー――クセノパネス2
  精神的な教養,知恵(ソフィアー)の重視――クセノパネス3
  純粋な思惟による把握物の発見――パルメニデス1
  知覚と思惟,思惑と真理の区別――パルメニデス2
  自然から人間への問いへ――ヘラクレイトス1
  対立関係と万物の統一――へラクレイトス2
  宇宙論的思考と宗教的思考――へラクレイトス3
貴族の戦いと聖化
  ピンダロスとテオグニスによる貴族理念の永遠化
 テオグニスの本の伝承
  名詩撰の基礎
  キュルノスへの注目による作品構成の分析
  作品冒頭で著者の名を挙げる習わし
  テオグニスの生存年代
 貴族による教育伝統の集大成
  貴族階級の教育全体を伝える訓戒(ヒュポテーカイ)
  民衆の台頭に対する貴族の闘争
  テオグニスの貴族倫理
  富とアレテーの結び付きの解体
  貴族を特徴付ける正義としての徳(アレテー)
 ピンダロスによる貴族への信仰
  古風で闘争(アゴーン)的な人間
  体操術,競技者の理想
  宗教的な文芸としての勝利の讃歌
  最高の人間的な勲功(アレター)としての勝利
  身体と精神を共に包括するアレテー概念
  英雄と英雄の血の讃美
  貴族のパイデイアとイデア哲学
  アレテーが生得であるという信仰と教育
  詩人の力と職業訓練を受けた人(マトンテス)の知識
  詩人の課題としての国王の教育
 僭主の文化政治
  教養史上の僭主政の位置付け
  僭主政の起源としての経済的・社会的な大変動
  幸福な上昇の時代としての僭主政
  僭主による詩人・芸術家の保護

   第Ⅱ部 アッティカ精神の絶頂と危機

アイスキュロスの劇
  創造の背景としてのペルシア戦争
  悲劇の教育的な役割
  叙事詩の再生としての悲劇
  悲劇の中心にある神話と英雄精神
  悲劇の覇権と国家の栄華
  ポリス生活のハイライトとしての悲劇の上演
  悲劇の由来,合唱団の機能
  宗教的な問いの焦点としての悲劇
  運命の人間への支配,神と運命との関係付け
  人間の限界に関する最も深い思慮深さ(ソーフロシュネー)と認識
  世界の秩序への信仰,迷妄(アーテー)に基づく動揺
  三部作を統一的に考察する必要性
  個人的なアレテーと超人格的な運命との対立
  文化創造の精神としてのプロメテウス
  プロメテウスの英雄性,巨神(ティタン)性
  全対立関係の,国家秩序(コスモス)における和解
ソポクレスの悲劇的な人間
  三大悲劇詩人の関わり
  究極の法則の認識に基づく彫塑的な質
  一回限りの古典性,教養芸術としての悲劇
  都会性,中間音の巨匠,思慮深さ(ソーフロシュネー)の自明な表現
  最高のアレテーの担い手としての人物の形成
  人間形成の出発点としての魂(プシューケー)
  苦悩による真の人間的な偉大さへの上昇
  人間の悲劇的な自己認識としての悲劇
ソフィスト
 教養史上の現象としてのソフィスト
  貴族の教育上の特権の乗り越え
  血の優位という神話的な前提の打破
  教育目的としての知的な弁論
  精神形成による政治的なアレテー
  ソクラテス以前の哲学者による人間観
  実践的な要求,多面的な教養
 教育学と文化理想の起源
  政治的な教養の技術的な知識に対する優位
  高尚な教養と国家,共同体との結び付き
  教養世界の歴史的な構築
  教育理論の基礎として人間の自然への注目
  人間の教育可能性への楽観的な信仰
  法律の教育的な機能
  教養と農耕との比較
  後世の修辞学への影響
  数学的諸学科の教養への組み入れ
  イオニア精神とアッティカ精神との架橋
 国家の危機と教育
  教育的な力の源泉としての国家
  平等あるいは強者の支配としての自然
  国家の法律と世界の秩序(コスモス)の法律の亀裂
  深い基礎付けを欠いた人間・国家・世界観
エウリピデスとその時代
  時代の危機の表現
  社会的な分裂と人間の内的な解体
  知的,芸術的な中心としてのアテナイ
  アテナイの様々な場での合理的精神の萌芽
  革命的な冒険性と勇敢な改革欲
  生の市民化と悲劇の喜劇化
  修辞学と詩的な雄弁との関連
  哲学の詩情に対する支配
  神話に対する批判,劇の抒情詩化
  人間の感情と情熱が不穏に動く世界の探求
  教養力としての市民社会,修辞学,哲学
アリストパネスの喜劇
  人間の属性としての笑う能力
  喜劇の展開史,悲劇の喜劇への影響
  アリストパネスの他の喜劇詩人に対する優位
  同時代の最大の教育力としての喜劇
  アテナイの過去に値しない民衆と指導者への批判
  『騎士』における古き時代の理想像
  新しい教育の代表者ソクラテスへの批判
  若者の魂をめぐる新旧の教育の戦い
  悲劇の警告者としての喜劇
  詩人の本質と職分に関する信仰告白
  国家の指南者としての喜劇
政治的な思想家としてのトゥキュディデス
  ヘカタイオスとヘロドトス
  政治的な思考の歴史化
  権力政治家の目に基づく過去の考察
  歴史の中に永続的な法則を認識する努力
  内在的な合法則性を持つ世界としての政治
  闘争の根拠と戦争の真因との区別
  アテナイにおける権力の展開の心理学的な基盤
  戦争の内的な必然の洞察による客観性の獲得
  戦争の中心にある権力という問題
  力と正義の戦い,権力とノモスの分離
  シチリア遠征という政治的な誤り
  理想的な国家指導者としてのペリクレス
  民主主義国家における指導者の重要性
  アッティカ精神の正当化としてのパイデイア

解説
訳者あとがき
概念名・作品名・その他の用語解説
人名・神名・地名・家名・部族名の用語解説
索引

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内容説明

ギリシア人の教養と理想的な人間像が相互に作用しつつ形成される経緯を描いた,イェーガーの古典的名著『パイデイア Ⅰ-Ⅲ』(1934-47)のⅠ,Ⅱ部を訳出した待望の書。

本冊ではホメロスからデモステネスに至るほぼ数百年間を扱う。英雄的で政治的な古典的時代のギリシアにおける教養の基礎およびその展開と危機について,著者は文学,哲学,歴史,宗教,医学,政治,法学,経済など多領域からの探求に挑む。

19世紀中期以降,科学技術の進歩,ナショナリズムや労働運動の高まりにより,陶冶の手段としての古典語の価値が揺らいだ。人文主義を擁護するためギリシア古典古代の教育上の意義を,「政治的な人間の形成」という統一的なプログラムとして「第三の人文主義」の立場から解明する。

教育とは個人の事柄ではなく共同体の事柄である。個々の成員によって刻印付けられた共同体は,政治的な人間にとってあらゆる行為と態度の源泉である。共同体の成員に対する影響は,新たに生まれる個人を共同体の意向に沿う教育によって意識的に形成する努力の中にあった。

パイデイアとは子供の教育,後に教育一般,教養,文化などを意味した。ギリシアにおける教養の本質を知ることは,現在の教育上の知識と意欲にとって不可欠の基礎となろう。

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