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パイデイア(下)  新刊

ギリシアにおける人間形成

パイデイア(下)

知泉学術叢書34(通巻35)

著者 W.イェーガー
曽田 長人
ジャンル 歴史
教養
シリーズ 知泉学術叢書
出版年月日 2024/12/25
ISBN 9784862854254
判型・ページ数 新書・632ページ
定価 本体5,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

第Ⅲ部 偉大な教育者と教育体系の時代―後半

イソクラテスの弁論・修辞術とその教養理想
  哲学と弁論・修辞術との教養の優先権をめぐる戦い
  ソフィストの継承者イソクラテス
  戦争の強大な影響下に登場した弁論・修辞術
  ギリシア諸国家間の平和的な均衡という課題
  雄弁の新しい形式の模範としての政治的な弁論
  法廷弁論代作者としての活動と学派の創設時期
  哲学者と弁論・修辞術の教師が相手へ掲げる非難
  問答法を論理的な技術へ形成することへの批判
  思い上がった理論と素人的な技術の中間の道の模索
  弁論・修辞術と文芸,弁論家と詩人の緊密な関係
  教養における自然と技術の間の緊密な関連
  弁論・修辞術の長所としての政治的な教養
  純粋な認識という幻の現実に必要な事柄の対置
政治的な教養と国民的な理念
  政治的な活動の手段としての弁論・修辞術
  ギリシアの国民的な相互扶助という意識の増大
  ギリシア統一の先駆的な闘士としてのアテナイ
  アテナイ文化の無比の使命への信仰と後世への影響
  ギリシア的なものと普遍人間的なものとの同等化
  ギリシア全体が基づく教養からの教養理想の成立
君主の教育
  支配者の教育を介した教養の国家への働きかけ
  支配者による政治的な教授の根本的で普遍的な形式
  文化の創造主としての雄弁やロゴスの称賛
  支配者の働きかけの基準としての正しいパイデイア
  支配者の義務を実現できる国家形式としての君主制
  「ニコクレスに与える弁論」の背景,内容の分析
  内面的に調和し合う正しい法律と確固たる秩序
  警句的な文章の中での伝承された支配者の像の変形
  歴史的な知識という基礎へ据えられた支配者の教育
  弁論・修辞術の教養体系に場を見出した歴史認識
  人間に正しい決定能力を持たせる真の弁論
急進的な民主主義における権威と自由
  「民族祭典演説」における国民的なものへの転回
  アテナイに関する楽観的な確信に対置された暗い像
  「アレイオス・パゴス会演説」の成立をめぐる議論
  国制再建の出発点としてのアレイオス・パゴス会
  大衆支配に対して有産者の集団が行った叱責
  穏和な民主主義者テラメネスへの近さ
  古えの理想へ努力する宗教的・政治的な保守主義
  アレイオス・パゴス会による市民教育の新たな構築
  財産の区別の彼岸にある教育の目標
  廉恥(アイドース)という道徳力,古えの貴族の躾の再活性化
  真にアテナイ的な自然(ピュシス)への指示にある教育的な考え
  アテナイが海上支配へ掲げる要求の放棄
  根本的で人倫的な態度の変化による政治状況の改善
  精神の強力な労苦による権力を目指す努力の根絶
イソクラテスによる自らのパイデイアの擁護
  彼のパイデイアの目的と成功を描く「財産交換(アンティドシス)」
  自著の選抜に現れた,模範を目指す教育的な方向
  自著へ向けられた非難に対する抗弁
  ポリス全体へ向けられたイソクラテスの教育
  弟子の行為へ完全な責任を引き受けるという説明
  アテナイを率いた弟子ティモテオスの称賛
  民衆指導者と妥協しない頑固さへの叱責
  業績を測る基準としての教授活動の物質的な成功
  人間共同体をまとめる力に取り組む高尚な精神教育
  パイデイアを否定する二種の人々に対する抗弁
  アカデメイアやアリストテレスとの対立関係
  数学的な研究が精神教育へ価値を持つことの容認
  プラトンの見解の否定による自説の開陳
  真の貪婪(プレオネクシア)や人格性の文化へ導く弁論・修辞術
  民衆指導者に対する教養の政治的な弁護
  三つの国制の適切な混合に基づく最善の国家形式
クセノポン
  作品の受容,生い立ち,波乱の生涯の概観
  著作活動の概観,その政治的・時代的な背景
  全著作活動を貫く意識的で教育的な特徴
  外国の人種,その生活形式への取り組み
  オリエント文化のギリシア文化による豊穣化
  ペルシア人のパイデイアと共同体の結び付き
  ペルシア人の躾とスパルタ人の教育の類似
  市民を最善の戦士としたスパルタの全制度
  スパルタの保守主義的な要素,当地の教育の梗概
  神的な因果応報(ネメシス)の結果としてのスパルタの敗北
  人間性の根源の土台としての田舎
  軍人と農場主による有能性と義務感の結合
  農場主とその妻に求められる属性,仕事の内容
  プラトンによる狩猟の評価とその規範の規定
  人格形成の手段と方途としての狩猟の承認
プラトンの『パイドロス』:哲学と弁論・修辞術
  成立年代に関する評価の動揺―初期から後期へ
  弁論・修辞術への関わりを軸とした作品の統一
  弁論・修辞術に対して問答法の教育が持つ意義
  弁論・修辞術によるエロスへの真のエロスの対置
  問答法と弁論・修辞術の間の精神的な関連
  弁論・修辞術の理想としての真の意味での技術(テクネー)化
  魂の態度の形式の必然的な表現としての弁論
  弁論家が知識を必要とすることの証明
  哲学的な問答法の弁論・修辞術への教育的な優位
プラトンとディオニュシオス:パイデイアの悲劇
  人間共同体の全体を根本的に変化させる哲学教育
  権力と認識の結合による最善国家の実現
  シラクサ王ディオニュシオス2世への期待
  神的な摂理の個人的行為としての力と精神の出会い
  若い支配者を教育する意図と明晰な規定による召命
  シチリアからの追放と再度の招聘の受け入れ
  魂の緩慢な成長に端を発する神的な事柄の認識
  人間全体と人間の生の変化を目指す支配者の教育
  最善国家と政治的現実の間の深い根本的な亀裂
プラトンの『法律』
 教育者としての立法者
  パイデイアの歴史の中心である『法律』の伝承史
  立法それ自体の教育の原理への従属と道具化
  大人を市民的な徳へ教育する担い手としての法律
 法律の精神と真の教養
  最善の国家倫理に関する哲学的な問いの探究
  特定の人間理想とアレテーからの意識的な出発
  饗宴の教育的な力とそのパイデイアへの組み入れ
  パイデイアの中心的な部分としての正しい養育
  ポリスの立法者として神的なものを認識する個人
  洞察と慣れることの調和的な結合に基づくアレテー
  倫理と美の統一の合唱舞踊の中への再建
  生得の美への喜びと善への欲望との融合
 国家の没落の原因について
  人類の歴史という問題への集中的な取り組み
  貪欲な願望を原因としたドーリア人国家の没落
  支配者に立てられる七つの「資格」への依拠
  スパルタの評価とペルシアの国王制に対する批判
  教育的な観点から見られたアテナイ民主主義の堕落
 国家創設と神的規範:法律の序文(プロオイミア)
  海上支配を行う民主主義に対する保守的な批判
  支配者の条件としての,真の法律への厳しい聴従
  あらゆる立法の中心にして源泉としての神
  真の立法の本質に関する基本的な見解
 民衆教育のための法律
  小さい子供に行われる道徳教育の決定的な役割
  国家を縛る絆としての書かれていない慣習
  年齢に即して段階付けられた若者の教育
  遊戯の教育的な価値に関する新しい根本的な説明
  絶対的に堅固な伝統の必要に応じた変化
  パイデイアの官職の任命に関わる規則
  教育内容の無尽蔵の鉱脈としての『法律』
  強固にされた実科的授業による市民の神信仰の強化
  視察員(テオーロイ)の外国視察による,有益な刺激の取入れ
 支配者の形成と神の認識
  支配者の形成の基礎としての一者の哲学的な認識
  万物の尺度としての国家と神の発見
デモステネス
  彼に関する過去150年の歴史的な評価の変遷
  ギリシア史の根本事実としてのポリスの自立性
  アテナイの再度の高揚期とデモステネスの青年期
  政治的な弁論の文筆上の芸術ジャンルへの展開
  第二次アッティカ海上同盟の解体と対テーバイ
  アテナイ国家の最低点における政治活動への参入
  非干渉主義者への近さと外政への関心
  隣国との同盟締結によるアテナイの孤立脱出の試み
  アテナイを脅かすマケドニアに対する外政の模索
  民衆教育の理念に基づく「ピリッポス弾劾演説」
  アテナイ民族の自己責任への呼びかけ
  大衆を説得し高みへ導く現実政治家
  ピリッポスに対する汎ギリシア的な戦線の構築
  歴史がアテナイの民衆へ課す義務
  ポリスが主権を有するあり方の終焉

解説
訳者あとがき
概念名・作品名・その他の用語解説
人名・神名・地名・家名・部族名の用語解説
索引

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内容説明

ギリシア人の教養と理想的な人間像が相互に作用しつつ形成される経緯を描いた,イェーガーの古典的名著『パイデイア Ⅰ-Ⅲ』(1934-47)を訳出した待望の書。
本冊では第Ⅲ部「偉大な教育者と教育体系の時代」の後半,イソクラテスの弁論・修辞術やプラトンの『パイドロス』『法律』を主に扱う。ソフィストの登場にギリシアの教育の大きな画期を認め,教育の二つの柱としての哲学および弁論術について,相互の接点や対立も含め詳述する。
19世紀中期以降,科学技術の進歩,ナショナリズムや労働運動の高まりにより,陶冶の手段としての古典語の価値が揺らいだ。その中で著者は,人文主義を擁護するため,ギリシア古典古代の教育上の意義を,「政治的な人間の形成」という統一的なプログラムとして「第三の人文主義」の立場から解明する。
教育とは個人の事柄ではなく共同体の事柄である。個々の成員によって性格付けられた共同体は,政治的人間にとってあらゆる行為と態度の源泉である。共同体が成員に与える影響は,新たに生まれる個人を共同体の意向に沿う教育によって意識的に形成する努力の中にこそあった。
パイデイアとは子供の教育,後に教育一般,教養,文化などを意味した。ギリシアにおける教養の本質を知ることは,現在の教育上の知識と意欲にとって不可欠の基礎となろう。

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