目次
第1章 『リュシス』篇解釈の一視点
1 客観的専門知
2 欲求の四項構造
3 欲求の複合構造的説明
4 もう一つの知識観
5 結び
第2章 信念系の転換と知の行方――『エウテュデモス』篇解釈試論
1 信念系の転換
2 詭弁の実例
3 学ぶこと(μανθάνειν)の二義
4 領域的専門知から脱領域的知への転換
5 領域的専門知の《解釈》
6 自閉的写像言語系の克服
7 ロゴスを用いる知への転換
第3章 居丈高な仮想論難者と戸惑うソクラテス――『大ヒッピアス』篇の一解釈
1 序
2 導入部(281a1-286c3)の解釈
3 「仮想論難者」という仕掛け
4 美の探求の解釈
附論1 美とエロースをめぐる覚え書き
1 『饗宴』篇からの示唆
2 第二次性質と美
3 私案提示
附論2 ソクラテスが教えを乞うた女性アスパシア
1 ギリシア悲劇に登場する女丈夫たち
2 アスパシアとペリクレス
3 アスパシアとソクラテス,そして弟子たち
4 プラトンと『メネクセノス』篇,そしてアスパシア
第2部 魂と《生のアスペクト》――アリストテレス『魂について』の諸相
第4章 アリストテレスの感覚論――表象論序説
Ⅰ 自体的感覚対象と付帯的感覚対象
1 事物は直接知覚され得るのか?
2 アリストテレスによる感覚対象の三区分
3 感覚対象の「自体的/付帯的」区分をめぐる諸解釈の批判的考察
4 現象と志向対象
Ⅱ 固有感覚対象と共通感覚対象
1 「〜と見える」の三用法
2 固有感覚対象と固有感覚
3 共通感覚対象と共通感覚
Ⅲ 感覚をめぐる諸問題
1 前節までの整理と二つの補完的議論
2 存在把握からの逸脱――矮小化と希薄化
3 結び――表象論に向けて
第5章 アリストテレスにおける表象と感覚
1 狭義の感覚・広義の感覚
2 表象
3 表象論の射程
第6章 ロゴスとヌースをめぐる一試論――アリストテレス『魂について』に即して
Ⅰ 二つの言語観
1 声・話声・言語
2 もう一つの言語観
3 世界の形相的把握機能そのものとしての魂の内なる言語
Ⅱ 言語能力としての知性
1 思考能力としての知性
2 思考と感覚の類比
3 能動知性と光
4 感覚能力の知性による変容としての付帯的感覚――小括
第7章 生のアスペクトと善く生きること――アリストテレス『魂について』を起点として
1 生のアスペクトとしての〈生きている〉こと
2 ただ生きられるしかない〈生の事実〉
3 人間の〈生のかたち〉としての「善く生きること」
附論3 アパテイアの多義性と「慰めの手紙」――東方教父におけるストア派の両義的影響
1 バシレイオスにおけるパトスの三区分とそのストア派起源
2 バシレイオスにおけるアパテイア概念
3 アパテイア,エウパテイア,メトリオパテイア
第3部 善き生の地平としてのフィリアー――アリストテレス政治・倫理学の諸相
第8章 アリストテレスのフィリアー論序説――友愛の類比的構造
1 フィリアーの諸形態
2 「友愛」の規定
3 友愛の類比的構造
4 結論
第9章 アリストテレスのフィリアー論――自己愛と友愛
1 フィリアー概念の多様性と利他的友愛規定
2 自己愛論
3 利他的友愛の可能根拠
第10章 正義とフィリアーの関係について――アリストテレス『ニコマコス倫理学』を中心に
1 アリストテレスにおける正義論の概観
2 衡平と友愛
3 結論
第11章 共同体におけるテオーリアーとフィリアー
1 共同体の二つの位相
2 完全共同体と完全な友愛
3 友愛と正義
4 人としての善・市民としての善
第12章 13・14世紀におけるアリストテレス『政治学』の受容
1 序
2 ラテン世界への『政治学』の導入
3 中世の社会・政治思想への『政治学』受容の影響
4 結び
第13章 善き生の地平としての共同体=政治的公共性
1 序
2 共同体主義による自由主義批判
3 私的領域と公的領域の相関史
4 失われた公共性の再創出
5 統合的共同体の紐帯としての公共的フィリアー
6 《私たちの善き生》の地平としての公共性
第14章 人間本性と善――M・ヌスバウムによるアリストテレス的本質主義の擁護
1 序
2 現代英米系倫理学における「徳」倫理の再生とその前史
3 アリストテレス倫理学=政治学と「公共性」
4 M・ヌスバウムと現代アリストテレス主義
5 批判と展望――結びに代えて
附論4 アリストテレス離れの度合――古典的徳倫理学の受容と変遷
1 徳と幸福の関係
2 行為における思慮の働き
3 徳と政治的権利
あとがき
初出一覧
引用文献表
人名索引
事項索引
古典出典索引
内容説明
本書の目的は,形而上学的な観想の生ではなく,日々の暮らしに汗する生の現場で哲学の意味を探求することである。18本の論文を一書にまとめ,善に関わる問題群に光を当てた十数年にわたる研究成果である。
「第1部 信念系の転換と知の行方」では,プラトン対話篇の読解を通して,客観的専門知の彼方にある知識を検討し,さらに領域的専門知ではない〈知を愛し徳を行う〉新たな知への転換が考察される。
「第2部 魂と《生のアスペクト》」ではアリストテレス『魂について』の諸相を,魂とは生きることの原理であるという視点から考察する。まず「存在するものとの出遭い」について表象と感覚をめぐって明らかにする。自体的感覚対象と付帯的感覚対象,固有感覚対象と共通感覚対象,そして形相とロゴスの関係,表象と身体運動,言語と認知能力など感覚から知への展開とともに,言語を媒介にして善く生きる意味が探求される。
「第3部 善き生の地平としてのフィリアー」では「善く生きる」とは徳の形成であり,その完成態としてフィリアー(友愛)を捉えたアリストテレス倫理学を通して,自己愛と友愛,「自分のため」と「相手のため」を繋ぐ共同体の形成原理を解明,現代倫理学への可能性を示唆。