目次
序論
はじめに
1 詩聖ホメロス
2 叙事詩創作の辞退 recusatio
3 プロペルティウスの recusatio
4 ティブッルスの recusatio
5 オウィディウスの叙事詩についての意識
6 ペトラルカ
第1章 プロペルティウスとホメロス
はじめに
1 叙事詩人ポンティクスへの詩(1.7, 1.9)
2 ホメロス叙事詩における恋愛
3 ホメロス叙事詩の翻案(4.7, 4.8)
まとめ
第2章 キュンティアの亡霊――プロペルティウス第4巻第7歌
はじめに
1 pelle か pone か(4.7.79)
2 プロペルティウスの背信
3 王国の崩壊
4 高潔なキュンティア
まとめ
第3章 帰ってきたキュンティア――プロペルティウス第4巻第8歌
はじめに
1 キュンティアのラヌウィウムへの遠乗り(4.8.1-26)
2 興ざめの宴(4.8.27-48)
3 キュンティアの乱入と君臨(4.8.49-88)
まとめ
第4章 ティブッルスとプロペルティウス――ティブッルス第1巻第8歌に込められたプロペルティウスへの言及
1 ティブッルスの叙述手法
2 ティブッルス第1巻とプロペルティウス第1巻
2.1 Tib. 1 と Prop. 1 の成立年代
2.2 Tib. 1.8 と Prop. 1.9
3 Tib. 1.8 とProp. 1 との響き合い
3.1 魔術への言及
3.2 富に勝る恋の喜び
3.3 ウェヌスの加護
3.4 「命短し恋せよ乙女」
3.5 マラトゥスの嘆き
まとめ
第5章 シビュッラとアエネアス――オウィディウス『変身物語』第14巻120-153
はじめに
1 状況設定
2 アエネアスとシビュッラの対話
3 シビュッラの嘆き
4 1000年の歳月
まとめ
第6章 梟と鹿――オウィディウス『変身物語』第11巻24-27行の直喩
はじめに
1 ウェルギリウスとオウィディウス
2 梟と鹿の直喩
3 オルペウスとオウィディウス
4 古代ローマの作家と劇場
まとめ
第7章 プロペルティウスとペトラルカ――二人の恋愛詩人の接点をめぐって
はじめに
1 詩的題材としてのキュンティアとラウラ,詩論との関わり
2 夢のなかに現れる恋人
3 ペトラルカの創作手法
まとめ
結論
あとがき
文献一覧
固有名詞索引
事項索引
引用箇所索引
欧文目次・要約
内容説明
ホメロスは,ギリシアのみならず,ローマにおいても,詩人の代名詞であり,憧れの存在であった。しかしローマでは,叙事詩の創作が批判や揶揄の対象となり,大作を忌避するカッリマコス主義の影響もあり,彫琢を極めた小品が推奨された。
古代ローマの共和政から元首政にかけてのほぼ60年にわたり,文芸ジャンルである恋愛エレゲイア詩が隆盛した。本書ではその中の代表的な三人の詩人,プロペルティウス,ティブッルス,オウィディウスの作品を取り上げる。特にプロペルティウスを中心に,彼らの作品中に隠された,叙事詩への強い関心を具体的に跡付け,古代ローマ文学における叙事詩と恋愛詩との緊張関係を明らかにする。さらに,ルネサンスの旗手であるペトラルカがプロペルティウスから受けた影響を考察し,近代文学へと流れていく恋愛詩理解に示唆を与える。
近代ヨーロッパの名だたる文学者を魅了してきた,難解なラテン詩人を解明した,堅実で独創的な研究成果である。引用原典の平易な訳文と明快な論述は,西洋文化の起源や広範な知見と教養を得る上で,他に類書のない新たな世界を開いてくれるに違いない。