目次
1 はじめに
2 古代の「イソップの話」
3 日本の「イソップの話」
4 「イソップ寓話」の取り扱い
5 本書について
第1部 形成――古代イソップ論
第1章 古代ギリシア・アルカイック期――ヘシオドスとアルキロコス
1 はじめに
2 「イソップ」の年代設定
3 ヘシオドス
4 アルキロコス
5 おわりに――後世のイソップ集の場合
第2章 古代ギリシア・古典期――アリストファネスとプラトン
1 アリストファネス
2 プラトン
3 その他の用例
4 おわりに――古典期の「イソップの話」
第3章 古代ギリシアからローマへ――アリストテレスとその影響
1 アリストテレスと「イソップの話」
2 前1世紀頃までの用例
3 「身体と胃袋の話」にみるアリストテレスの影響
4 おわりに―『弁論術』と「イソップの話」
第4章 ローマ帝政期――修辞学教育とその周辺
1 テオンのミュートス論
2 クインティリアヌス
3 2世紀頃の用例
4 ジャンル意識の形成
5 おわりに――「格言」と「イソップの話」
第5章 古代のイソップ集――ファエドルスとバブリオス
1 1世紀までのイソップ集
2 編者について
3 編者の認識
4 編者と集成
5 おわりに――古代のイソップ集と編者
第2部 展開――西洋から近代日本へ
第6章 アトス写本とイソップ受容――バブリオス集の受容と変質
1 はじめに
2 バブリオスの受容と展開
3 『修辞学初等教程』におけるミュートス
4 アトス写本後辞と編者
5 おわりに
第7章 1505年刊行アルドゥス本のラテン語翻訳
1 はじめに
2 15世紀のラテン語翻訳イソップ集
3 各種ラテン語版の比較検討
4 アルドゥスにおける「翻訳」の信頼性
5 おわりに
第8章 19世紀英国の翻訳イソップ集――「蛙と牛」における母蛙の怒り
1 はじめに
2 「蛙と牛」の話
3 翻訳の原典について
4 19世紀以前の英語版「蛙と牛」
5 「牧草地で草を食む牛」
6 おわりに
第9章 「犬とその影」にみる近代日本イソップ受容
1 はじめに
2 明治初期の「犬とその影」
3 古代の「犬とその影」
4 ジェームズとタウンゼントの参照元
5 再読――明治初期の「犬とその影」
6 おわりに
第10章 近代日本のイソップ受容と初等教育
1 はじめに
2 幕末・明治初期の新聞
3 福沢諭吉『童蒙をしへ草』
4 渡部温『通俗伊蘇普物語』
5 福沢英之助『訓蒙話草』
6 初等教育とイソップ受容
7 おわりに――『通俗伊蘇普物語』普及と出版広告
終章 その後の展開から――接続する「イソップ|寓話」
1 上田万年『新訳伊蘇普物語』
2 上田敏『伊曽保物語考』
3 村田宇一郎『小学実際的教授法』『単級修身教授の実際』
4 「寓話」の拡がりと「イソップ寓話」
あとがき
図版出典
参考文献
索引
欧文目次
内容説明
「うさぎとかめ」など童謡にも歌われ,誰しもどこかで耳にしたことのあるイソップ寓話。それら一群の話は,紀元前600年頃の古代ギリシアにおいてイソップが語ったとされる。古典古代の時代には弁論術として用いられ,また格言として読まれて,西洋中世を通じ広く受容されてきた。近世以降には各国語に翻訳されるとともに多様な形式で広範に広まり,明治初期の日本に到来した際は初等教育の教材として全国に普及した。
本書は,古代ギリシア語原典によるイソップ研究を基盤として,近世のヨーロッパや日本におけるイソップ集の展開を幅広い視野で考究した画期的業績である。
第1部では,イソップの名のもとに様々な話が集められる経緯を,アリストファネスやプラトン,アリストテレスなどの論述から分析する。特に弁論術や修辞学教育の文脈に着目して,イソップ集の形成が後世に多くの話を伝える媒体となったことを解明する。
第2部では,西洋中世の写本による読み替えや,近世の印刷本に関する議論など,時代の変遷に伴う話の変化と背景への影響を明らかにする。更に英国の事例を参照した上で,近代日本における受容と展開を論じる。明治初期の英語からの訳出と修身教育への導入,当時評判を呼んだ渡部温訳『通俗伊蘇普物語』を具体的に検討する。
専門分野を超えて,中世・近世西洋における古典受容と創作,寓話の誕生,国民形成と初等教育,西洋文化の日本への移入など,多領域にわたり有益な視座を提供する。