目次
第Ⅰ部 16・17世紀のイエズス会と教育
A 草創期のイエズス会と教育
第1章 草創期のイエズス会学校と人文主義教育――当時の時代的挑戦とメッシーナの聖ニコロ学院の開設を中心に(髙祖敏明)
1 はじめに
2 時代からの挑戦の諸相
3 イエズス会学校が開設される前後の社会的環境
4 イエズス会教育の目標――重視した価値と設定した課題
5 イエズス会教育の方法と実践――メッシーナの聖ニコロ学院(1548年-)
6 結論――草創期イエズス会学校のキリスト教的人文主義の特徴
第2章 聖イグナチオ・デ・ロヨラの霊性と教育――イエズス会キリスト教人文主義教育の出発点(浦 善孝)
1 はじめに
2 イエズス会人文主義教育の出発点
3 イグナチオの『霊操』と『イエズス会会憲』四部
4 『イエズス会学事規定』の学ぶ者に対する霊的世話
5 まとめ
第3章 『イエズス会学事規定』と「パリ方式」(桑原直己)
1 はじめに
2 イエズス会の学校教育への参入と『イエズス会学事規定』
3 下級コレギウム
4 上級コレギウム
5 「パリ方式」
第4章 初期イエズス会における修辞学教育の意義(桑原直己)
1 はじめに
2 イエズス会コレギウムにおける修辞学教育とキケロ
3 キケロ修辞学における「蓋然性」の意味
4 16・17世紀のイエズス会と倫理神学
5 キケロ修辞学の影響とイエズス会の倫理神学
6 修辞学がもたらしたイエズス会霊性の柔軟性と「適応主義」
第5章 初期イエズス会人文主義教育と女子教育修道会(桑原直己)
1 はじめに
2 近代に向けて――女子教育共同体の展開
3 女子教育における「学校」の成立
4 聖心会――近代女子教育修道会の一つのモデル
5 結語
B 16・17世紀の日本とイエズス会教育
第6章 キリシタン時代の日本――初期イエズス会の日本宣教(川村信三)
1 はじめに
2 時代からの挑戦
3 日本社会の特徴――民衆宗教の共同体的結束の時代
4 初期イエズス会の日本社会における目標
5 方法としての「順応」(accommodation)方針に至る道
6 むすび
第7章 キリシタン時代の日本におけるイエズス会学校(桑原直己)
1 はじめに
2 イエズス会による学校建設まで
3 ヴァリニャーノの教育構想
4 セミナリヨ
5 ノヴィシアードおよびコレジヨ
6 教区神学校
7 結語
第8章 日本語訳におけるアリストテレスとトマス・アクィナス――ペドロ・ゴメスの『イエズス会日本コレジヨの講義要綱』(1593-95)(M. アントニ・ウセレル S. J.)
1 はじめに
2 日本のための神学要綱
3 神は,日本人に対して慈悲深くないのか?
4 『イエズス会学事規程』とイエズス会におけるトミズム
第Ⅱ部 近現代におけるカトリック教育とイエズス会
第9章 明治初期から第二バチカン公会議に至る日本のカトリック(川村信三)
1 第1期(1854-90年) 明治期のカトリック宣教の「挑戦」と「目標」
2 明治後期・大正・昭和初期の苦悩する宣教:第2期(1890-1945年)
3 社会の中で新たな希望を見出す宣教:第3期(1945年-現在)
4 宣教の創始と拡大――第一バチカン公会議までの特徴的宣教
5 第一バチカン公会議のもたらした変化――「能動的信徒」から「受動的信徒」へ
6 第二バチカン公会議と能動的信徒回復の試み
7 むすび
第10章 イエズス会教育の今日的挑戦――『イエズス会教育の特徴』(1986年)が担う歴史的課題と学校改革の方向性(髙祖敏明)
1 はじめに
2 時代からの挑戦の諸相
3 イエズス会学校がおかれていた社会的環境
4 イエズス会教育の目標――重視した価値と設定した課題
5 イエズス会教育の方法――教育方針と教育実践の諸形態
6 結論
第11章 日本カトリシズムの霊性――戦争体験を担うイエズス会の人々(黒住 眞)
1 カトリック,イエズス会の日本史における意義
2 近代化で問われる三課題――第一次世界大戦をめぐって
3 日本にあらわれた問題――昭和前期と第二次世界大戦
4 戦後の実践と身に担う思考・霊操から――目的と平和
5 現代に向かう霊性――ペドロ・アルペと門脇佳吉
第12章 20世紀イエズス会神学者における「ヒューマニズム」思想の展開(島村絵里子)
1 はじめに
2 イグナチオ的ヒューマニズム
3 テイヤール・ド・シャルダンにおける人間理解
4 バーナード・ロナガンにおける人間理解
5 テイヤールとロナガンの共通点と相違点
6 カール・ラーナーにおける人間理解
7 おわりに
第13章 第二バチカン公会議とイエズス会――社会正義の問題を中心に(桑原直己)
1 はじめに
2 第二バチカン公会議以前
3 第二バチカン公会議(1962-65年)
4 総会に見る第二バチカン公会議以後のイエズス会の動き
5 結語
第14章 アメリカ合衆国におけるイエズス会学校の現代的挑戦―― Cristo Rey スクール・モデルを中心に(島村絵里子)
1 はじめに
2 Cristo Rey モデル学校の概要
3 「就労プログラム」から見た Cristo Rey モデル学校の課題
4 Crist Rey スクールにおける大学進学対策
5 おわりに
第15章 現代のイエズス会のミッションと教育理念の展開――東ティモールに新設された二つの学校を例として(浦 善孝)
1 はじめに
2 教育ミッションの挑戦――東ティモールの歴史と社会的環境
3 東ティモールでの教育プロジェクト開始に至るまで
4 東ティモールの教育プロジェクトのミッション
5 新しい学校作りの実践
6結語――現代イエズス会のミッションと「人文主義教育」を問う
あとがき
文献表
索引
執筆者紹介
内容説明
イエズス会はイグナチオ・ロヨラを中心に,全員がパリ大学で学位を取得した10名のエリート集団により結成された。彼らが重視した内部の人材養成が,世間の評判を呼び,教師の派遣を求められた。当初は派遣に慎重であったが,時代の要求に応えながら広く波及し,ヨーロッパを代表する教育的機能を果たすことになった。
イエズス会は人文学と教養の古典である自由学芸を中心にして,それを近代の中等教育に適用した教育モデル(『イエズス会学事規定』1599年)を開発し,現在に至るまで宗教界やヨーロッパ世界だけでなく,世界的にも広範な影響を与えてきた。
特にキリシタン時代に象徴されるように,イエズス会は社会と時代の要請に応え,対話に基づく〈適応主義〉という独自の方針で日本文化の固有性に対応した。今日では社会正義と地球環境をめぐる諸問題に,キリスト教ヒューマニズムの観点から積極的に取り組んでいる。
本書はロヨラの「霊操」を精神的基盤とするイエズス会の,教育に携わってきた歴史を考察するとともに,各地域での多様な対話を通じてヒューマニズム教育を推進してきた姿を紹介した本格的な業績である。
今日,教養教育と人文系の学問の社会的な存在意義が問われるなか,人文的教養の意義と歴史への関心は薄い。教育に関心をもつ読者にとり示唆に富む一書である。関連書籍
関連記事
- 『イエズス会教育の歴史と対話』正誤表 - 2021.03.22