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存在の一義性

ヨーロッパ中世の形而上学

存在の一義性
著者 ドゥンス・スコトゥス
八木 雄二 訳註
ジャンル 哲学・思想 > 中世哲学
シリーズ 知泉学術叢書
出版年月日 2019/07/25
ISBN 9784862852977
判型・ページ数 新書・816ページ
定価 本体7,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに

第1巻第3区分
第Ⅰ部 神の認識可能性――第一問題から第四問題

第一問題――神は認識されるか
 (異論)神の感覚表象はない
 (異論)太陽の光に対するフクロウの目
 (異論)無限は不可知である
 (異論)グレゴリウスの不可知論
 (反対論)アリストテレスの説

第二問題――神は最初に認識されるか
 (異論)存在と認識
 (異論)完全性と認識
 (異論)能力の最完全なはたらき
 (反対論)認識は感覚から始まる
 あらかじめ区別すべき諸概念
 肯定辞と否定辞
 「何であるか」と「在るかどうか」
 自然的概念と超自然的概念
 「名が指示する何」と「在るかどうか」
 漠然とした概念と明確な概念
 第一の学の主題の特殊性
 形而上学は神学を形成する
 異論の矛盾

第一問題についてのガンのヘンリクスの見解
 属性を通した神認識
 神は三つの仕方で普遍的に認識される
 評価力による神認識の可能性

第二問題についてのガンのヘンリクスの見解
 理性的(推論的)な把握の仕方

第一問題へのスコトゥスの回答
 神の「何」quidを示す概念が知られる
 概念の一義性の定義
 「存在の一義性」の第1証明
 概念の類似性による類比説の拒否
 「存在の一義性」の第2証明
 固有の概念の独立性
 「存在の一義性」の第3証明
 「存在の一義性」の第4証明
 「存在の一義性」の第5証明
 一義性が引き起こす問題と知性能力の第一対象
 追加された異論
 スコトゥスによる課題のさらなる追求
 「白いもの」よりも不完全な「無限な存在者」の概念
 「この神」の固有の概念
 知性的対象と意志的対象
 神の神自身の認識と意志
 人間の知性認識の問題――知性能力の第一対象
 神は「無限な存在者」である
 この段落理解のための予備的考察――存在に固有な属性
 完全性の無限
 至高であることと無限であること
 被造物の形象を通した神の認識
 被造物から神の概念を「掘り出す」こと

第一問題の最初の異論に対する回答
 存在と認識可能性
 無限の認識
 グレゴリウスの論の解釈
 実在の個と,概念上(認識における)の個と共通なもの

第二問題に対するスコトゥスの回答――知性認識の三つの秩序
 雑然とした認識(名)と,分明な認識(定義)
 最低種の認識
 形而上学は最後に学ばれる
 知性認識と感覚認識との距離
 補足説明――じっさいの不完全な認識
 「存在者」は分明に知性認識される第一のもの
 形而上学は第一の学である
 実際的認識の秩序
 近づくものの認識について
 感覚に表出されないもの
 含むものから含まれるものへ
 学習済みの(ハビチュアル)認識と潜在的認識
 さらなる疑問と答え
 認識の完全性の秩序

第二問題の初めの異論に対する回答――存在と認識可能性
 (異論回答)感覚による認識と論証による認識
 (異論回答)被造物がもつ認識原因と神がもつ原因
 (異論回答)否定的,欠如的に規定されていないもの

第三問題――知性に適合する第一対象は何か
 (異論)「神」が第一対象である
 (異論)存在するだけ認識される
 (異論)トマス・アクィナスの説
 トマスの説に対するスコトゥスの論
 アリストテレスの見解を想定する
 具体的な原因を求める自然的願望がある
 能力の対象は最大限度に共通なもの
 アリストテレス的異論は誤り
 (異論)認識は対象と類似する
 (異論回答)類似するはたらきと「在り方」
 追加された論
 ヘンリクスの異論とそれに対する反論
 神の知性の第一対象
 実体は第一対象ではない
 「究極的差異」と「何」
 存在者の属性
 知性の第一対象は「存在者」である
 「何」のうちに「存在者」が共通的である
 実体は直観されない
 (異論)聖体(聖化されたパン)認識
 (異論回答)暗闇の認識
 実体の認識と存在者
 究極的差異と固有の属性と,存在者
 存在の一義性の確認
 (異論)一義性に対するアリストテレスによる異論
 (異論回答)類と一義性
 (異論回答)差異と一義性
 (異論回答)類の内の一性
 (異論回答)定義と存在者
 (異論)知性の第一対象は「真」である
 (異論回答)真の概念
 (異論回答)認識能力とその対象
 (異論回答)抽象という知性認識の特有化
 人間知性の現今の状況

第三問題のはじめの異論に対する回答
 (異論回答)存在の分有と認識
 (異論回答)共通な善
 普遍的真理認識と感覚認識
 追加された異論とそれに対する回答
 正義と愛(1)
 事物に向かう起動因としての意志
 正義と愛(2)

第四問題――真理認識の可能性
 異論の紹介
 ヘンリクスの異論の説明
 ヘンリクスに対するスコトゥスの反論
 アウグスティヌスの見解
 確実に認識されるもの
 原理の確実性
 学問知の基礎概念
 原理の確実性と矛盾律の確実性
 三段論法による結論の確実性
 感覚は知識を得る「機会」occasio
 経験された認識を確実にする原理命題
 十分な原因説明と不十分な原因説明
 属性的真理認識――妥当な(aptitudinalis)認識
 自己の行為(自覚的行為)の認識の確実性
 錯覚にだまされない判断
 対象どうしの関係の不可変性の認識
 夢の問題
 懐疑主義を反駁する
 ヘンリクスの異論に対する全体的解決
 「永遠の光」とは何か
 アウグスティヌスの解釈
 可知的形象の光
 能動知性の光
 神の意志のはたらきと真理
 永遠的尺度
 「少数の人」,「純粋な霊魂」の意味
 永遠的光にもとづく神学

第1巻第8区分
第Ⅰ部 神の単純性――第一問題から第三問題

第一問題――神の単純性
 (異論)単純性と完全性
 (異論)神形相との複合
 (異論)神も複合実体である
 第一問題に対する回答
 質料と形相の複合と神の単純性
 量の複合と神の単純性
 実体と偶性の複合と神の単純性
 必然存在に複合はない
 無限存在に部分はない
 異論に対する回答
 複合が生じる完全性
 端的な完全性がもつ問題――個体的実体と本性
 (異論回答)「存在」esse を与えること
 補訳:形相的区別について(種々の同一性)――第2区分の第2部の論述

第二問題――被造物のうちに単純なものはあるか
 異論紹介
 完全性とその欠如
 心象における複合
 被造物の複合可能性
 分有論における複合

第三問題――神は類の内にあるか
 実体の類
 神は種である
 神の単純性と一義性
 神に固有な概念と一義性
 有意味な存在者 ens ratum
 神との関係とその基礎の絶対的認識
 概念は確実か疑わしいかのいずれか
 近似して一つに見える概念
 区別された概念が一つに見える
 「在るか」と「何であるか」
 類比における確実な概念
 何が確実で,何が疑わしいか
 存在者の把握が先行する
 アンセルムスの端的な完全性の説
 ディオニシウスの否定神学
 端的な完全性としての英知とイデアとしての英知
 (異論回答)矛盾した名辞のもとにある共通性
 (異論回答)実在性における不一致
 (異論回答)属性の一義性
 (異論回答)数的区分と一義性
 (異論回答)ディオニシウスの論
 (異論回答)アウグスティヌスの善の分有論
 頑なな否定に対して

(異論)第二の極端な見解――神は類のうちにある
 (異論回答)神は類のうちにはない
 無限は類のうちにない
 必然存在は類のうちにない
 超越者と範疇(述語形態)
 他の諸権威の見解とその否定
 無限な直線
 アリストテレス哲学による異論に対して
 (異論回答)ダマスケヌスの主張の解釈
 (異論回答)ボエティウス解釈
 言及する関係 relatio と実体との関係 ad aliquid
 類の内の尺度―第一動者
 (異論回答)最高類としての実体と,共通の実体
 簡略な結論
 共通な実在概念が受け取られる
 概念と内的固有の様態
 有限な概念が無限性と一致する
 不完全な概念が共通である
 表示する概念と表示される外的事物
 現存する個別者の理解
 (異論回答)他の権威の異論に対する回答
 (異論回答)超越者の英知と範疇内の英知

第3区分第1部(原文)
第8区分第1部(原文)
おわりに
解題 スコトゥスにおける「存在の一義性」
(前著)『カントが中世から学んだ……』の訂正表
索引(人名・書名・事項)

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内容説明

ドゥンス・スコトゥス(1265-1308)の「存在の一義性」について,難解とされるテキストの忠実な翻訳と段落ごとに初学者向けの懇切な解説を付した画期的業績である。

スコトゥスとの関連で「存在の一義性」は必ず触れられるが,わが国のみならずヨーロッパにおいてもこの概念が正確に理解されることはほとんどないのが現状である。

ギリシア以来の形而上学の探求は,13世紀にトマスにより大きく展開されたが,14-15世紀の二世紀に及ぶ飢饉やペストの影響で社会や学問が衰退し,〈暗黒の中世〉として中世の学術文化は近代へと正当には継承されなかった。

そのためデカルトやカントによる近代哲学の形成という哲学史的認識が今日に至るまで定着し,『方法序説』や『純粋理性批判』の主題が,スコトゥスによる中世最後の形而上学ですでに扱われていたことは知られていない。

スコトゥスは「記憶」を個人的記憶である〈個別的な記憶〉と,知識を学ぶ〈学習済みの知〉(所有 habitus)に区別する。彼は前者の「わたし」によってのみ経験された個別事象の記憶こそが,知性に属する真正の記憶であるとして,知性の記憶・想起の論を展開,「存在の一義性」という独自の概念に到達した。哲学史上この種の記憶は感覚的なもので,知性には属さないと一貫して否定されてきたのである。新たなヨーロッパ学の扉を開く必読の書。

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