目次
第一章 ポストモダンから実在論へ――問題設定
二〇年前の回顧/ポストモダンの六つの航路/マルクス・ガブリエルへの注目/思弁的実在論と新実在論/共有されるシェリングへの関心/本書の構成
第二章 マウリツィオ・フェラーリスの積極的実在論
政治的方向性の背景/思弁的実在論および,ガブリエルとの関係/認識論と存在論の分離/抵抗と勧誘――客体の二つの様相/積極哲学への接近/『世界年代の体系』の位置づけ――シェリング哲学の理解のために(その一)/「フーカント」と「デカント」――ポスト・モダニズム批判/恐竜の発見の歴史的意義/弱いテクスト主義――デリダの限定的評価/ガブリエルとの異同
第三章 マルクス・ガブリエルの無世界観
科学哲学への親近性/いわゆる「ガブ様旋風」について/古代懐疑主義をめぐるヘーゲルとシェリングの理解/なぜ「意味の場」ではないのか/「領野の領野」としての「世界」の否認/ユニコーンは存在する/クリプキの『指示と存在』/クリプキとの対決/人類滅亡後のユニコーン/行き止まりにあう道筋/判断論から見た憧憬――シェリング哲学の理解のために(その二)/先回りできない存在/相関主義批判と祖先以前性――カンタン・メイヤスー/「論理的過去」と「物理学的過去」――『世界年代』との接点/日本哲学史との関係
第四章 イアン・ハミルトン・グラントの事物化されない自然
堅実なシェリング研究者/自然哲学の自立化――シェリング哲学の理解のために(その三)/プラトン『ティマイオス』読解の意義/機械論者としてのフィヒテ/超越論哲学における形式的自然と実質的自然の統一/非線型的な反復発生/事物化されない自然/無底と超越論的火山活動――ドゥルーズとの接点/ポストモダンと対決しない姿勢/先件の事後的認識/先件の「非存在」/「非存在」としての啓示/地質学的知見からの実在論への接近
第五章 ティモシー・モートンの超過客体
人新世への強い関心/我が国における受容状況の問題点/思弁的実在論の分裂/規範的「自然」概念のイデオロギー性/相互客体性としての意識/実在的客体と感覚的客体の区別――グレアム・ハーマン/相互客体性への移行/1+n個の客体との関係/超過客体の汎用性/絶対的事実論性/超過混沌との異同
第六章 実在論的転回と人新世
「先回りできない存在」と超過客体/「美的」な因果性/実在論的転回とは何か/人新世とは何か/蓮實重彥によるガブリエル評/民主主義者トランプ/「擬態」としての現代/人類の生き残りのために
あとがき
文献一覧
索引
内容説明
近年注目を集める「新実在論」「思弁的実在論」というトピックス。しかしこれらは単なる流行思想にすぎないのであろうか。著者は,これらの思想運動を80年代以降の構築主義的なポストモダンの延長で捉えてはならないという。ここ30年間のドイツ思想の多様な展開を概観し,科学哲学を応用した後期シェリングの『世界年代』の読解からこの新しい実在論のアイデアを提示する。
各論では,「新実在論」の名付け親マウリツィオ・フェラーリスの「積極的実在論」や,「世界は存在しない」というテーゼに象徴されるマルクス・ガブリエルの「無世界観」,イアン・ハミルトン・グラントの鍵概念である「事物化されない自然」という産出性をもった力動的プロセスとしての自然観,ティモシー・モートンの「超過客体」概念による人類なき事象をも視野に入れた環境哲学などをシェリング哲学を軸に関連づけて読み解く。
長年シェリング研究に携わってきた著者が,2つの「実在論」運動,それに密接に関連する工業化による大気汚染や核開発など人類による地球システムへの甚大な影響を特徴づける「人新世」の問題圏とシェリング哲学を相互に照合することでアクチュアルなシェリング読解を試みる。