内容説明
本書はジル・ドゥルーズ(1925-95)の哲学に関する,わが国で初めての本格的な研究である。ドゥルーズが提起した「超越論的経験論」と「存在の一義性」に視座をすえて,生を超越した価値規範を背景とする〈モラル〉を批判,生に内在する意味と価値を肯定する力としての〈エチカ〉を構成し直すことにより,超越論的哲学の形成を試みる。
反道徳主義を主張するドゥルーズが,スピノザやニーチェが肯定した〈エチカ〉について,創造的な読解を可能にするようなかたちで彼自身がどのようにして〈エチカ〉の再開を果たすのか,反-実現論の視点から明らかにする。
さらにカントの批判哲学に着想を得ながらもそれとはまったく異なった側面から,思考と存在に関する〈批判の問題〉だけではなく,認識と身体に関わる〈臨床の問題〉をも含む新しい哲学の形成にドゥルーズの真の狙いがあったとして,ポスト・モダン思想の核心に迫る。
著者は今日における道徳の限界を明らかにし,それに代わる倫理を哲学的に提起するとともに,大いなるアナロジーの物語も,小さな欲望の模写も意味を失いつつある現代にあって,ストーリーなしの〈生〉をいかに生きるかと問うことにより,読む者に新たな想像力を喚起する。