目次
解題
I スコトゥスの視座
1 問題の提示
2 アリストテレスの異論
3 スコトゥスが成し遂げた仕事
4 聖書と教会の権威による異論
5 聖書と教会の権威による反対論
6 過去の記憶があること
7 過去の真理性
8 思い出されるもの
9 学習知と記憶
10 経験知と意志(自発性)
11 思い出される対象の条件(1)
12 思い出される対象の条件(2)
Ⅱ 想起する能力は感覚的か知性的か
1 疑問の提示
2 想起は感覚作用ではない
3 動物は過去を想起せずに行動する
4 アリストテレスによる反論
5 知性にも想起能力がある
6 懐疑説の検討
7 時の経過と二様の対象
8 感覚表象の必要性
Ⅲ 抽象と直観の区別
1 ラテン語テキスト編集者の仕事
2 抽象と直観
3 感覚不信と哲学
4 感覚表象
5 知性の内の抽象と直観
6 感覚の内の抽象と直観
7 抽象と直観の区別再論
Ⅳ 知性のうちの記憶と想起
1 知性は感覚の直観を認識する
2 知性は,知性と感覚の記憶を想起できる
3 想起する主体
4 権威の異論の根拠
5 結論
Ⅴ 異論への回答
1 最初の二つの異論への回答
2 個別性の認識
3 至福直観をもつものの至福性
4 神の作為
おわりに
註
内容説明
13世紀のヨーロッパは古代哲学から学んだ成果をスコラ哲学に結実させたが,中世後期には新たな主題に直面して,スコトゥス(1265-1308年)は中世スコラの掉尾となる神学体系を形成した。
14世紀になるとスコラ学は一時的に後退するも,基盤的な哲学として復活し,18世紀に至るまで多大な影響力を発揮し続けた。しかし18世紀末からイギリスでスコトゥス批判が起こり,彼の著作や研究書が焚書の扱いを受けて19世紀の哲学界から排除された。わが国ではその時期に哲学が導入されたため,スコトゥスが知られることはなかった。
中世では古代以来の質料形相論をもとに理性と感性が分けられ,思考と感覚は別の位相と捉えられていた。それに対しスコトゥスはその両者の間に「直観」という独自の領域を見出した。それはカントをはじめ近代の哲学者が前提していたものである。
本書はスコトゥスの最大の主著『オルディナチオ』(神と世界の秩序についての論考)の最終第14巻の直観に関するテキストを懇切丁寧に註解し,中世哲学が近代哲学と深く関連している事実を解明する。
近現代哲学の研究者が中世哲学を軽視する傾向に警鐘を鳴らすと共に,哲学に関心をもつ読者や新たに参入した研究者に哲学する醍醐味を伝える試み。