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中国演劇史論

中国演劇史論
著者 田仲 一成
ジャンル 東洋学
芸術
出版年月日 2021/12/15
ISBN 9784862853523
判型・ページ数 菊判・440ページ
定価 本体5,400円+税
在庫 在庫あり
 

目次



第1章 演劇発生論――巫覡一元説
 第1節 演劇発生のメカニズム――理論的考察
  Ⅰ 演劇の発生の環境――神がかり
  Ⅱ 戯曲文学の発生――鎮魂論
  Ⅲ 孤魂祭祀から戯曲文学へ
 第2節 山西の隊戯――上党追儺戯
  Ⅰ 山西地区祀神祭礼中の隊戯
  Ⅱ 晋北雁門の【賽戯】の隊戯
  Ⅲ 晋西南の【鐃鼓雑戯】の隊戯
 第3節 山西隊戯の西南伝播――四川・雲南・貴州
  Ⅰ 四川の隊戯
  Ⅱ 雲南澄江県【関索戯】の隊戯
  Ⅲ 貴陽白雲区牛場郷蓬莱村の祭祀歌舞(唖隊戯)
  Ⅳ 安順地戯

第2章 宋元演劇論――初期演劇の形成
 第1節 宋代の隊戯――元宵灯戯,舎人隊戯
  Ⅰ 南宋の灯戯
  Ⅱ 福建漳州の隊戯
 第2節 宋代目連戯の発生――『仏説目連救母経』
  Ⅰ 日本金光寺所蔵『仏説目連救母経』の物語
  Ⅱ 『仏説目連救母経』の成書時期
  Ⅲ 作品の時代的特色Ⅰ――絵解き
  Ⅳ 作品の時代的特色Ⅱ――九幽地獄
  Ⅴ 明清目連戯への影響
 第3節 遺存の元雑劇――李賢得道,大会諸侯,孟良盗骨
  Ⅰ 遺存の元雑劇①――神仙進化劇『呂洞賓度鉄拐李岳雑劇』『蟠桃会』
  Ⅱ 遺存の元雑劇②――三国劇:『三戦呂布』,『張翼徳単戦呂布』
  Ⅲ 遺存の元雑劇③――楊家将劇『昊天塔孟良盗骨雑劇』

第3章 明代演劇論Ⅰ――祭祀演劇の世俗化
 第1節 『金釵記』――祭祀・儀礼
  Ⅰ 烈女物語としての演出
  Ⅱ 劇中に祭祀儀礼を再現している意味
 第2節 明初の戯曲演出――古典戯曲の演出
  Ⅰ 『西廂記』の演出
  Ⅱ 『琵琶記』――趙真女
  Ⅲ 【二十四孝】に見える明初戯曲の特徴
 第3節 『湘湖記』――同族意識
  Ⅰ 中国の仇討劇――湘湖記
  Ⅱ 仇討物語としての特色

第4章 明代演劇論Ⅱ――祭祀演劇の個性化
 第1節 湯顕祖『還魂記』――冥界遮断の構造
  Ⅰ 南戯『朱文太平銭』
  Ⅱ 『牡丹亭』と『太平銭』の異同
  Ⅲ 湯顕祖修改の苦心
 第2節 湯顕祖に仮託した明末文人の戯曲観――欲望の肯定
 第3節 林章の『観灯記』・『青虬記』――時局劇
  Ⅰ 版本の出現
  Ⅱ 林章戯曲の成立と伝播
  Ⅲ 『観灯記』
  Ⅳ 『青虬記』
  Ⅴ 林章戯曲の影響

第5章 清代演劇論Ⅰ――祭祀演劇の組織化
 第1節 織造府管轄下の江南劇界――俳優ギルドの変遷
  Ⅰ 清代の織造府と演劇の関係
  Ⅱ 蘇州織造における演劇行政の変遷
  Ⅲ 蘇州織造と江南俳優ギルドの形成
  Ⅳ 揚州俳優の蘇州参入
 第2節 浙東宗族の組織形成――輩行字と演劇
  Ⅰ 西河単氏の場合
  Ⅱ 史村曹氏の場合
  Ⅲ 唐里陳氏の場合
  Ⅳ 史氏・施氏の場合
  Ⅴ 宗祠演劇の劇団と演目
 第3節 長河来氏の祭祀組織――祠産形成の過程
  Ⅰ 輩行字の統合
  Ⅱ 土地所有の拡大
  Ⅲ 族内階層構成と祠産形成
  Ⅳ 祠産の蓄積と投資の拡大
  Ⅴ 祭祀費の変遷

第6章 清代演劇論Ⅱ――祭祀演劇の商業化
 第1節 清代の村落演劇――市場地演劇への傾斜
  Ⅰ 村落の祭祀演劇
  Ⅱ 市場地の祭祀演劇
  Ⅲ 宗族の祭祀演劇
  Ⅳ 秘密結社と地方祭祀演劇の関係
 第2節 河北の市場地演劇――朝鮮使節燕行記録の事例
  Ⅰ 市場性の祭祀演劇
  Ⅱ 上演劇本,演目
 第3節 都市の会館演劇――戯園の形成過程
  Ⅰ 会館の祭祀演劇
  Ⅱ 会館の共同体的演劇
  Ⅲ 会館の族群からの離脱傾向
  Ⅳ 会舘演劇の階層構造の変質
  Ⅴ 戯曲史上における会館の作用
  Ⅵ 会館演劇の戯曲演目

結章 近代地方劇論――愛情劇の展開
  Ⅰ 問題の所在
  Ⅱ 廟中相会本と舟中相会本の前後関係
  Ⅲ 福州廟中相会本の【男女相逢】の演出
  Ⅳ 吉安舟中相会本の【男女相逢】の演出
  Ⅴ 吉安廟中相会本の【男女相逢】の演出
  Ⅵ 近代地方劇の改編Ⅰ――四川劇の場合
  Ⅶ 近代地方劇の改編Ⅱ――潮州劇の場合

あとがき
索引
欧文目次

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内容説明

演劇とは,どのように発生し,人間や社会にとってどんな意味を持つのか。
かつて王国維は歌舞,所作,科白,物語が統合されて演劇・戯曲が成立したとする多元論を唱え,中国では現在もその主張が優勢である。しかし著者はその真逆に立ち,最初に祭祀があり,巫覡の神がかり状態が時とともに進化し,各要素が洗練されて独自の芸術として演劇が発生したとの祭祀一元論を提唱してきた。
本書は祭祀演劇の社会・経済的な基底部分にも焦点を当て,中国演劇の誕生から民国期までの展開を解明する。まず古代の演劇発生を祭祀起源一元論として詳しく解説した上で,各時代の問題点を時系列的に考察する。中国における演劇の端緒である宋・元の仮面の演出,南宋初期における仏典『目連救母経』の成立,そして明代初期には江南同族社会で徐々に祭祀との未分化状態を脱し,人間的な演劇が成長しつつあったことを論証する。すなわち明代の湯顕祖『牡丹亭還魂記』は,近代個人主義の萌芽と相まって演劇が祭祀演劇の構造から脱却する転換点となった。さらに考察は清代に及び,昆曲の俳優ギルドや劇団の資産形成を分析し,また裁判記録や朝鮮使節の記録に基づき村落や市場地の演劇状況を検証する。
演劇を支える主体が宮廷から商人,工人集団へと拡大する歴史的要因の分析は,中国史研究に新たな視座を提供する。また中国文学のみならず,日本の芸能史や現代演劇にも豊かな示唆を与えるに違いない。中国演劇研究の第一線で活躍してきた著者の集大成である。

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