目次
第一部 詩文による音楽世界の創出
第一章 詩賦がもたらす楽器イメージ――洞簫をめぐって
一 王褒の「洞簫の賦」
二 消失した漢代の洞簫
三 詩のなかに生きる洞簫
四 宋代俗楽器の洞簫
五 蘇軾「前赤壁の賦」の洞簫の後世への影響
結語
第二章 詩が創出した唐の代表曲――霓裳羽衣曲
一 白居易「長恨歌」以前の霓裳羽衣曲
二 憲宗の宮廷音楽と白居易
三 中晩唐の文壇と霓裳羽衣曲
四 江州司馬左遷期の白居易と霓裳羽衣曲
五 白居易「霓裳羽衣歌」
六 五代・宋の宮廷の霓裳羽衣曲
七 白詩を追って
結語
コラム 白詩に聴く雲和・阮咸の響き
第二部 詩文で辿る唐宋音楽の実相
第一章 唐代開元期における礼楽世界の完成――張説が描いた世界
一 潑寒胡戯の禁止
二 開元の太常寺音楽
三 張説と礼楽
四 封禅の企画
五 礼楽の完成
六 千秋節の饗宴
結語
第二章 辺塞音楽の中国化――涼州詞と涼州曲
一 涼州と西涼楽
二 盛唐の涼州音楽
三 盛唐の「涼州詞」
四 中唐の「涼州詞」
五 「梁州曲」の出現
六 変調と玄宗時代への懐古
結語
第三章 唐宋音楽を繋ぐもの――唐代中晩期の蜀の音楽文化
一 安史の乱による音楽文化の蜀への移動
二 都の音楽を補完する蜀の音楽文化
三 蜀を通して献上された「南詔奉聖楽」と「驃国楽」
四 蜀の音楽文化の成熟
結語
第四章 唐宋期の古楽復興――古楽をめぐる言説からみえるもの
一 唐の古楽復興にまつわる言説
二 唐代における古楽器
三 宋代における古楽への関心
四 仁宗期の古楽にまつわる言説
結語
第三部 詩人と音の世界
第一章 風に運ばれる音――李白の詩が創り出す音の世界
一 イメージのなかの音楽
二 笛と李白
三 風を媒介にして拡がる音
四 春風と李白
五 万里へと運ばれる音
結語
第二章 音の定式からの解放――王維が開いた日常の音の世界
一 隠逸イメージをつくる音
二 俗世の喧噪を表わす音
三 王維の描いた暮らしの音
四 隠逸世界の生活者の具現化
五 異土に聞こえる暮らしの音
結語
第三章 宋代文人と音楽――黄州における蘇軾の音楽文化探求
一 黄州における音楽への関心
二 歌うことへの意識
三 師を偲ぶ「酔翁操」制作
四 琴士崔閑と蘇軾
五 「前赤壁の賦」における洞簫
六 洞簫に秘められた想い
結語
第四章 詩材としての日常の音――蘇軾が描く音の世界
一 音に込められた心の響き
二 現実世界へとつなぐ音
三 黄州鼓角の多情
四 海南島における誦書の声
五 缾笙の音
結語
あとがき
初出一覧
索引
内容説明
魅惑的な外来音楽が盛んに演奏され,都長安の音楽文化が華開いた唐代,そしてそれが宮廷に留まらず巷にも流行し,その新たな曲調に合わせ詞を付す塡詞という文人の娯楽が出現した宋代――当時を生きた人々は,実際にどのように音楽を享受していたのだろうか。
本書は,これまで知られてきた唐宋の音楽世界を,詩文など豊穣な文献資料を用いて丁寧に見直し,その実相を提示する本格的業績である。
第1部は,今なお演奏される伝統楽器の洞簫,および盛唐を代表する「霓裳羽衣曲」が詩文として後世に伝えられる中で,一つの音楽像を形成していく姿を捉える。
第2部では,玄宗期に完成した礼楽儀礼とそれを掌った太常寺の意味を張説の詩文から読み解く。さらに辺境音楽の涼州曲を取り上げて,外来音楽が主流とされた唐代音楽を改めて見つめ直す。安史の乱と宮廷音楽との関係,楽人の離散による地方への音楽伝播,加えて唐代と宋代の音楽に対する考えの違いをも解明する。
第3部では,李白・王維・蘇軾の音楽描写から,都を追われた詩人が見た日常の音の世界を浮彫りにする。
詩文は楽曲や楽器を意味づけつつ,人々の間に広まっていった。本書は前著『詩人と音楽』の姉妹編で,読者に中国独特の音楽世界を紹介し,詩文に依拠して,唐宋の音色を今に伝える一書として貴重な作品である。