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香りの詩学

三国西晋詩の芳香表現

香りの詩学
著者 狩野 雄
ジャンル 東洋学
出版年月日 2021/01/30
ISBN 9784862853295
判型・ページ数 A5・498ページ
定価 本体7,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

 序章 暗香疏影――嗅覚の響く場所

第Ⅰ部 香る女性像の系譜

 第一章 香りを含む女たち(一)――先秦から後漢の詩歌辞賦作品
  はじめに
  第一節 『詩経』のなかの芳香と女性の表現
  第二節 『楚辞』のなかの芳香と女性の表現
  第三節 宋玉「神女賦」のなかの芳香と女性の表現
  第四節 前漢の詩歌辞賦作品のなかの芳香と女性の表現
  第五節 後漢の詩歌辞賦作品のなかの芳香と女性の表現
  結び

 第二章 香りを含む女たち(二)――魏晋期の詩歌作品
  はじめに
  第一節 香気の「発見」――曹氏兄弟
  第二節 香る女性のヴァリアント――阮籍
  第三節 芳香と時間,あるいは典型――傅玄
  第四節 夫婦の愛情――張華・潘岳
  第五節 伝統と革新――陸機
  結びに代えて

 第三章 香る身体――六朝民歌の子夜四時歌と謝恵連「擣衣」詩を中心として
  はじめに
  第一節 梁詩に見える芳香と女性の表現
  第二節 六朝民歌の子夜四時歌に見える芳香と女性の表現
  第三節 六朝期の詩人の詩歌作品に見える芳香と女性の表現
  結びに代えて

第Ⅱ部 香りの表現と匂いの記憶

 第一章 迷迭の賦をめぐって――建安文学における香気の発見
  はじめに
  第一節 建安時代の香りの情況
  第二節 迷迭の賦をめぐって(1)――陳琳・王粲・応瑒
  第三節 迷迭の賦をめぐって(2)――曹丕・曹植
  結びに代えて

 第二章 輝ける香り,芳しき光り――曹植「迷迭香賦」の「順微風而舒光」句をめぐって
  はじめに
  第一節 曹植「迷迭香賦」
  第二節 『楚辞』の香りと光り
  第三節 漢賦の香りと光り
  結びに代えて

 第三章 舞台の上の曹丕楽府――楽舞と芳香の表現をめぐって
  はじめに
  第一節 曹丕楽府の公讌詩的性格
  第二節 楽をよくする美人
  第三節 舞台の上の曹丕楽府
  結び

 第四章 「戀」する潘岳――漢魏西晋詩歌に見える「戀」字と潘岳「悼亡詩」について
  はじめに
  第一節 遅れてきた「戀」字
  第二節 漢魏西晋期の詩歌作品に見える「戀」字
  第三節 潘岳「悼亡詩」に見える匂いの表現をめぐって
  結びに代えて

 第五章 芳りと響き――二陸の詩歌作品に見える感覚表現
  はじめに
  第一節 二陸の詩歌作品に見える共感覚的表現
  第二節 二陸と『楚辞』
  第三節 芳る人,響く人
  第四節 呉楚の異郷者と感覚風土
  結び

 第六章 芳る祖国――陸機「悲哉行」の芳香表現をめぐって
  はじめに
  第一節 鼻の歓び,鼻の憂い――陸機「悲哉行」の芳香表現
  第二節 「幽蘭盈通谷,長秀被高岑」の解釈をめぐって
  第三節 南北の「蘭」――西晋詩歌に見える三国時代の影
  第四節 芳る祖国
  結び

 第七章 谷と蘭――陸機「贈潘尼詩」をめぐって
  はじめに
  第一節 陸機「贈潘尼詩」と作詩の背景
  第二節 王夫之『古詩評選』の評と諸注釈――「贈潘尼詩」を読む(1)
  第三節 谷と蘭――「贈潘尼詩」を読む(2)
  結び

第Ⅲ部 香り・匂いの文化誌

 第一章 謎の蘇合香――二つの異聞のはざまで
  はじめに
  第一節 二つの謎
  第二節 二つの異聞
  第三節 悪しき匂いとその力
  結び

 第二章 匂い立つのか,響くのか――周瑜の「美」をめぐって
  はじめに
  第一節 音を知る周瑜
  第二節 匂い立つ周瑜
  結びに代えて

 第三章 匂いの幸(さき)わう国――孫呉の時を超える匂い
  はじめに
  第一節 才人の死――諸葛恪の死を告げる匂い
  第二節 『捜神記』の死を告げる匂い
  第三節 小覇王の死――孫策の死を告げる匂い
  第四節 匂いの満ちる国――孫呉の感覚世界の背景
  結び

 終章 文学としての香り――匂いの表現をめぐる個別性と普遍性

初出一覧
あとがき
索引
中文要旨
英文要旨

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内容説明

目には見えないが,確かに存在している香り。詩人たちはそれをどのように表現してきたのか。中国古典における芳香表現のもつ意味とは何か。三国志の時代は激動の時代であったが,香り・匂いの表現においても大きな転換をなした。本書は,先秦漢魏晋南北朝期の詩文,とりわけ三国西晋期の詩歌における嗅覚の表現を通して作品の内側に迫る独創的な研究業績である。

第Ⅰ部は,先秦から南北朝期の詩歌辞賦作品における,芳香と女性の表現の系譜を辿る。香る女性像の源泉は『楚辞』九歌と宋玉「神女賦」にあり,曹丕・曹植による「芳香の気」の発見が後の感覚表現を決定づけたことを論じる。それを踏まえて第Ⅱ部では,後漢末の建安年間から西晋王朝による再統一後までの作品に注目し,外来した地中海原産の植物「迷迭」など多種多量の香料に包まれた詩人たちが,匂いそれ自体を表現し始める様子を描く。その中で潘岳の作品にみる匂いの記憶,および陸機・陸雲の詩歌がもつ特異な感覚表現を考察する。第Ⅲ部は作品の文化的側面に焦点を当て,伝統的な香料である蘇合香を手がかりに悪臭と霊力の謎に迫りつつ,さらには『三国志』周瑜をめぐる表現にも言及する。

香りの表現は詩人それぞれの身体感覚に深く根ざすが,本書により今日のわれわれもまた香りを通して豊かな詩文の世界に触れるだろう。中国文学のみならず,日本文学研究にも多くの示唆を与えうる貴重な成果。

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