目次
イントロダクション(編集委員)
メネストレル主催国際シンポジウム《中世における文化交流――対話から文化の生成へ》(Ch. デュクルティユー(有田豊訳))
Ⅰ 文化交流をひらく――「東洋」「西洋」「東洋―西洋」
矢代幸雄と大和文華館の設立――文化交流の場としての美術館(古川攝一)
1 矢代幸雄の経歴
2 大和文華館の設立とその活動―国際交流の「場」としての美術館
おわりに
中国・宮廷コレクションと東アジア文化の生成――南宋復興秘閣の成立と江南仏教世界の変容(塚本麿充)
はじめに――中国皇帝コレクションと東アジア社会
1 北宋の宮廷コレクションの成立(960年)とその崩壊(1126年)
2 南宋復興秘閣とそのコレクションの理念
3 南宋臨安の文化的復興と江南仏教世界の再生
おわりに――南宋から南都へ 12~13世紀の古典文化の消失と復興事業
文化交流としてのキリスト教への改宗?――中世の事例と比較に向けた視座(A. ゴチエ(成川岳大訳))
1 文化的移行としての改宗
2 改宗は反作用的でありうるか?
3 新たな課題の発生源としての布教現場
結論
中世日本人の異国観(伊川健二)
はじめに
1 高山寺派とその異国観
2 室町時代におけるインドもしくは「南蛮」
おわりに
窓としての図書館――西方のブルゴーニュ公と東方の魅惑(H. ウェイスマン(佐藤龍一郎訳))
1 ブルゴーニュ公の蔵書
2 アレクサンドロス大王
3 蔵書中の他のテキスト――若干の例から
結論
英仏間の和平を求めて――ジョン・ガワーとフィリップ・ド・メジエールの教訓的書簡(小林宜子)
1 海峡横断的な平和運動――著述家と外交使節のネットワーク
2 ガワーが描く平和のヴィジョン
3 開かれた書物としてのトレンサム詩集
13~14世紀のイタリアで書かれたフランス語――人口言語,混成言語,あるいは接触言語? 若干の事例から(A. ロシュブウェ(島崎利夫訳))
1 不鮮明なコーパス――13~14世紀のイタリアにおけるフランス語とそのテクスト
2 遠心的視点から多元主義へ――接触に基づく新興の理論的アプローチ
3 諸層の識別,言語学的収束の研究――若干の事例
マンドレイクの採取法――ヨーロッパ・中東・中国における知識の往還(山中由里子,I. ドラーランツ(執筆協力))
1 起点:中国
2 ミッシング・リンク?
3 イブン・バイタールの薬学書
4 伝承者としてのバヌー・サーサーン
結論
補遺:イブン・バイタール著(山中由里子訳)『薬用植物と食物全書 Jāmi’li-mufradāt al-adwiya wa l-aghdhiya』(3/4, pp.10-12)
Ⅱ 戦争と平和,しるしとテクスト――比較史の試み
一揆/盟約――中世日本とヨーロッパにおける共同体の言語と表象(S. フェレンテ&佐藤公美(佐藤公美訳))
はじめに
1 14世紀の荘家の一揆
2 一向一揆と共同体のことば
結論的考察
「日本紋章学」と決別するために――日本の家紋と西洋の紋章:標章比較研究の一例(L. アブロ(江川溫訳))
1 分析フレームワークの設定
2 「紋」という標章体系を具体事例として研究する
3 比較標章論の意義
西欧と極東における印章――美術史学からの比較の試み(A. ヴィラン,田邉めぐみ(執筆協力)(頼順子訳))
はじめに
1 西欧と極東における印章の歴史
2 比較の諸要素
3 比較によるアプローチから文化交流へ
騎射に見る日欧の中世軍事文化の比較――戦い方と身分の表象(堀越宏一)
1 騎馬と騎射の起源
2 騎乗と騎射の導入――日本の場合
3 騎乗と騎射の導入――ヨーロッパの場合
4 中世日本の軍事制度
5 中世ヨーロッパの軍事制度と弓・弩の位置づけ
6 飛び道具をめぐる日本の武士と西欧の騎士の比較
比較史における宗教と戦争――「長い中世」の日本と西欧(Ph. ブック(斉藤恵太訳))
1 中世における宗教と戦争
2 戦争で人を殺めた後で
3 境界に立つ者たち
おわりに
『ローランの歌と平家物語』――比較研究の可能性について(黒岩卓& B. グレヴァン(黒岩卓訳))
はじめに
1 近代日本と佐藤輝夫の研究歴における『ローランの歌』
2 「口承」理論の位置づけ
3 著作内部における相互的なまなざし
結論
中世における東洋の教訓物語――データベース「中世教訓逸話集シソーラス」による索引化のための批判的・比較論的アプローチ要素(J. ベルリオーズ(室崎知也訳))
1 西洋と東洋の教訓物語
2 ThEMAと極東への接続
3 東洋の教訓物語の索引化
4 「牝鹿と隠者」と「聖人と鳥」――比較研究の二つの例
結論
索引
編者・執筆者・訳者・協力者紹介
欧文目次
内容説明
従来であれば知り合う機会のなかった東西の中世研究者がオンライン上で各種情報源,論文,参考文献を共有する「メネストレル」という知のネットワークで国際的・学際的に交流し,日本で行われた国際シンポジウムを通じてその成果を結実した。本書収載の論文は,日本語版と欧文版によって広く世に問われるものである。
「メネストレル」はインターネットとともにこの20年間に地理的,言語的障壁を乗り越え,史資料の収集と研究の職務に従事している,図書館や文書館の学芸員,大学教員,研究者,エンジニアなど200名余の中世研究者を結集させた,類例のない国際的ネットワークである。
本書の第Ⅰ部「文化交流をひらく」では,歴史的背景の異なる極東,極西,ユーラシア大陸の史資料や文物などから文化交流の問題を考察した8論文を収める。第Ⅱ部「戦争と平和,しるしとテクスト」の7論文では,ヨーロッパと極東(主に日本)の比較論的見地から,中世における文化交流のさまざまな様態に関する考察が示され,多種多様な中世の世界観を示唆している。
中世史の再検討を通して,国の枠組みを超え多様性や文化の共存などを重視する「グローバル・ヒストリー」の時代の新たな異文化交流の書。関連記事
- 『東西中世のさまざまな地平』正誤表 - 2020.09.18