目次
第Ⅰ部 文化の復興
1 カロリング・ルネサンス(多田 哲)
はじめに
1 「カロリング・ルネサンス」の概念
2 革新と再生――現代的見地から
3 renovatioとcorrectio――同時代人の意識
4 カロリング・ルネサンスの目的
おわりに
2 古代の理論と中世の実践のはざまで――Γ―F式アルファベット記譜法をめぐって(西間木真)
1 Γ-F式アルファベット記譜法
2 略字s-rと譜線
3 A-G式アルファベット記譜法への吸収と展開
4 結語
3 「12世紀ルネサンス」とギリシア教父の影響――ポワティエのジルベールの神学とフゴー・エテリアヌス(甚野尚志)
はじめに
1 ポワティエのジルベールの弟子たちとフゴー・エテリアヌス
2 書簡にみる翻訳依頼の経緯
3 フゴー・エテリアヌスの『本性と位格の相違点』
4 フゴー・エテリアヌスのコンスタンティノープルでの活動
5 1166年のコンスタンティノープル教会会議
おわりに
4 再生と充溢としてのルネサンス観とその今日的課題――東西を結ぶルネサンス概念(根占献一)
1 ルネサンス像の再検討
2 学校以前のルネサンス像と教育上のルネサンス
3 研究概念としてのルネサンス――ブルクハルト以後
4 和辻哲郎の見たルネサンスと日本
5 内田銀蔵の近世観と時代の充溢
5 1500年前後のドイツ語書籍出版――アウクスブルク市の例(藤井明彦)
1 はじめに
2 1496年から1505年にアウクスブルクで刊行されたドイツ語書籍一覧
3 まとめ
6 ランケと中世研究(佐藤真一)
1 はじめに――中世暗黒観とランケ
2 ランケの学生時代と中世
3 フランクフルト時代と歴史家ランケ
4 ベルリン時代の講義,演習,著作
5 『世界史』(1881-88)における中世の輝き
6 ランケと学問的中世「再生」
第Ⅱ部 宗教の復興
1 『単純な魂の鏡』における三つの死と三つの生(村上 寛)
1 はじめに
2 ポレート及び『鏡』について
3 三つの死
4 罪の死
5 自然本性の死
6 精神の死
7 自由な生
8 終わりに
2 14世紀カルメル会士の預言的伝統と修道制――ヒルデスハイムのヨハネス『擁護者と誹謗者との対話』より(鈴木喜晴)
はじめに
1 ヒルデスハイムのヨハネスの生涯
2 『対話』本編の構成
3 旧約聖書・預言・会の永続
4 「しるし」としての修道服
5 共鳴する過去と現在
6 最古のレグラと完全なレグラ
おわりに
3 イギリス中世末の教会改革とハッケボーンのメヒティルドの霊性(久木田直江)
はじめに
1 ヘルフタ修道院と『特別な恩寵の書』の成立
2 アランデル教令と宗教書の翻訳
3 ヘルフタの霊性と聖心崇拝
4 霊的治癒の言説
5 聖心と空間のアレゴリー
6 結び
4 宗教改革百周年記念ビラにおけるルターの復活――宗教改革の図像学的トポスの継承と変容(高津秀之)
はじめに
1 1617年のビラにおけるルターのイメージ
2 薔薇十字運動と「全般的改革者」ルターの肖像
3 宗教改革百年祭と三十年戦争
おわりに
5 ロシア正教会の刷新とその挫折――ロシア古儀式派の源流(三浦清美)
1 17世紀ロシア正教会の分裂
2 ノヴゴロド人キリクの『質問状』――12世紀
3 決疑論の担い手としての『舵の書 Кормчая книга』
4 プスコフのエフロシンの場合①――コンスタンティノープル巡礼
5 エフロシンの場合②――論争
6 都市異端――ストリゴーリニキとユダヤ異端
7 モスクワ大公国勃興期の決疑論の流行
8 イワン雷帝のストグラフ会議(百章会議)
9 底流にある西欧キリスト教会への怖れ
第Ⅲ部 美術における復興
1 ボッカッチョ・リヴァイヴァル――『デカメロン』仏語写本に描かれた「クライマックス・シーン」(伊藤亜紀)
1 『デカメロン』発見
2 イタリアの『デカメロン』
3 翻訳者ローラン・ド・プルミエフェ
4 「女の都の画家」の選択
5 貞女の表象
6 華麗にして慎ましく
2 神聖ローマ皇帝フェデリーコ2世のカプア門彫刻――ルネサンスの曙光(児嶋由枝)
はじめに
1 カプア門と,古代・近代
2 カプア門の彫刻
3 カプア門と中世キリスト教美術
おわりに――カプア門におけるルネサンス
3 ジョルジョーネと古代美術(高橋朋子)
1 ジョルジョーネが育った土壌
2 トレヴィーゾと「古代」
3 パドヴァとジョルジョーネ
4 ジョルジョーネと古代彫刻
5 おわりに
4 ヴェネツィア神話画の再生とフェラーラ宮廷文化(塚本 博)
序
1 エステ家の宮廷文化
2 ヴェネツィア絵画の主題変遷
3 ヴェネツィア神話画とフェラーラ宮廷
4 神話画の再生
5 詩想画の成熟
5 「トラディティオ・レギス」図とCod. Vat. gr. 342のヘッドピース――「法の授与」の予型論的解釈とリヴァイヴァル(辻絵理子)
はじめに
1 Cod. Vat. gr. 342の全挿絵
2 パウロから巻物を受け取る「モーセ」?
3 f.134の特殊なヘッドピース
4 「トラディティオ・レギス」図とラヴェンナ石棺
5 ff.133v-134の見開き
結びに
6 ティモテスバニ修道院(グルジア/ジョージア)と聖堂装飾における復古の問題(益田朋幸)
1 壁画のプログラム
2 アフタラ修道院の装飾
3 キリストと十二使徒
4 ドームにおけるデイシス
5 ドームの十字架
結論
あとがき
執筆者紹介
内容説明
本書は早稲田大学の〈ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所〉が『ヨーロッパにおける時間意識』(2012年刊)に続いて,「リヴァイヴァル=再生」の視点から迫った新しい研究成果である。
第Ⅰ部「文化における復興」では,カロリング・ルネサンスや12世紀ルネサンスなど中世ルネサンス論は中世文化の豊かさを示すだけでなく,ギリシア世界を含む古代的な伝統を繰り返しヨーロッパで再生し,革新的な要素を生み出してきたことを明らかにする。
第Ⅱ部「宗教における復興」では,文化・美術上のリヴァイヴァルとはかけ離れて見える近世の宗教現象を,再生・革新の視点から考察すると他分野と共通の流れが見出せる。中世末期の神秘主義や修道制,宗教改革,正教圏の神学などを,保守と革新との対比でなく伝統の再起,過去の選択的利用,反復と復興のダイナミズムとして検討する。
第Ⅲ部「美術における復興」では,イタリア・ルネサンスを中心に,古代への憧憬とローマ再生への意志がどのように展開されているかを,多数の図版を駆使して考察する。
グローバル化,ネットワーク化により知的環境と人文学のパラダイムが転換するなか,専門分野を越えて新たなヨーロッパ理解の可能性を探求する共同研究の試みである。