ホーム > 疫病・終末・再生

疫病・終末・再生

中近世キリスト教世界に学ぶ

疫病・終末・再生
著者 甚野 尚志
ジャンル 歴史 > ヨーロッパ中世史
出版年月日 2021/10/30
ISBN 9784862853486
判型・ページ数 菊判・364ページ
定価 本体6,000円+税
在庫 在庫あり
 

目次

序(甚野尚志)

Ⅰ 終末に向きあう
 1 カール大帝は「終末の皇帝」か?―西暦800年と終末意識(甚野尚志)
 2 6-8世紀の歴史叙述における疫病と「神の怒り」(岸田菜摘)
 3 再生への希望を求めて――サン・スヴェール黙示録写本挿絵の「災い」描写から(毛塚実江子)
 4 預言者に従う人々――13-14世紀転換期エミーリャ地方における終末待望とアポストリの変容(白川太郎)

Ⅱ 疫病とその影響
 1 14世紀,黒死病とともに生きること――港から描くシチリア島王国の政治・社会・経済(高橋謙公)
 2 疫病が14世紀半ばの教皇の葬儀に与えた影響――教皇クレメンス6世の葬儀(1352年)を事例に(大塚将太郎)
 3 中世後期アウクスブルクにおける「大量死」――ペスト被害の通時的考察(渡邉裕一)
 4 アロイジオ・ゴンザーガの「殉教」と聖化――対抗宗教改革下「帝国イタリア」における聖性の形成(皆川 卓)

Ⅲ 「他者」への抑圧
 1 病と毒と異教徒――「他者」の排斥をめぐるラテン・キリスト教世界と中世イベリア半島(黒田祐我)
 2 フロワサールと中世の「癩」(竹田千穂)
 3 なぜ狼男は人を喰うようになったのか?――近世ヨーロッパにおける狼男イメージの変容とその背景(高津秀之)
 4 「神の怒り」を招く瀆神の法的処理と社会的文脈――16-17世紀ザクセン選帝侯領を例に(齋藤敬之)

Ⅳ 「境界」を乗り越える
 1 二重修道院における身体的隔離と霊的共住(林 賢治)
 2 溶解する「死と生の境界」と国をめぐる歴史認識の変容――『ヴォロコラムスク聖者列伝』の幻視(三浦清美)
 3 罹患先住民女性の臨死体験と対称性――スペイン領南米ラプラタ地域のイエズス会布教区を事例として(武田和久)

執筆者紹介
索引

このページのトップへ

内容説明

人類が疫病と闘いながら文明を築いてきた側面について,歴史学は十分顧慮してこなかった。1万1千年前のメソポタミアでは野生動物の家畜化に伴い疫病が発生し,アテネでのペストの流行はギリシア文明を衰退させ,ビザンツ帝国でのパンデミックは古代ローマ終焉の要因となり,14世紀の黒死病によりヨーロッパ社会は根本的に変容した。南米ではスペイン人がもたらした疫病が先住民を死に追いやった。
第Ⅰ部「終末に向きあう」では,疫病による社会的危機が生み出す終末意識を検討する。第Ⅱ部「疫病とその影響」では,14世紀に大流行したペストがその後の西欧世界に与えた影響を分析し,Ⅲ部「他者への抑圧」では西欧の近中世世界で,社会的危機に際して迫害され排除されたマイノリティの問題を扱う。第Ⅳ部「境界を乗り越える」では,西欧とロシアの修道院や中南米のイエズス会布教区で,疫病が修道士や信徒の信仰のあり方に衝撃を与え,彼ら自身が霊的な再生をいかに目指したかを考察する。
産業革命以来,物質的欲望を追求してきた「近代文明」が限界に直面し,さらに世界がコロナ禍にあって,我々は文明の「境界」を越えて新たな文明へと「再生」できるのか。そのような問題意識から,本書はヨーロッパ中近世史の研究者が専門領域の事例を通して,疫病による社会的,宗教的な影響や伝承を実証的に考察した他に類のない本格的業績である。

このページのトップへ

このページのトップへ