目次
第一章 魂の治療
一 魂の健康
「医師キリスト」(Christusmedicus)
二 身体の治癒と魂の癒し
第四回ラテラノ公会議――告解と悔悛の義務
三 巡礼と病の癒し
中世の巡礼
聖人崇拝と聖遺物
身体の治癒
第二章 世俗の医学
一 ギリシャ・イスラム医学の継承
二 古代ギリシャの体液説
三 解剖学と人体の仕組み
四 医学と占星術
五 健康規範(Regimensanitatis)
養生訓
『健康全書』と食餌療法
六 環境
大気・水・土地
臭気と芳香
第三章 医療に従事した人びと
一 内科医
二 外科医
三 薬剤師と薬草医
第四章 女性の身体
一 古代医学の生殖観
男女の違い
月経と母乳
二 男性(vir)と女性(mulier)
男女の相違の文化的構造
キリスト教会と女性蔑視
三 女性の仕事
妊娠・出産
女性と医療活動
第五章 中世の病院(施療院)
一 聖なる空間
二 慈善事業
最後の審判
煉獄思想と魂のケア
三 身体のケア
結び
あとがき
注/参考文献/図版一覧/索引
内容説明
近代医学の柱である西洋医学の伝統を,心身の健康という観点から明らかにする。著者は西洋中世の医学と医療を,疾病を取り巻く自然環境や社会環境に加え,医師・看護士が行う臨床ケアや病院・施療院などの医療インフラ,さらに健康観や身体観を社会的・文化的に考える身体医文化論の方法によって豊富な資料や図版を用いて考察する。
ヒポクラテスやガレノスにより確立した古代医学は宇宙の中に人間を位置づけ,自然との調和に基づく身体観・人間観をとおして,身体と魂のバランスを体液生理学を軸に展開,これが西欧に伝わり魂の健康と死後の救済を結びつけるキリスト教に受容され,身体と魂の全体をケアするホリスティックな医療となった。
ギリシア医学はイスラム圏に継承され,さらに12世紀に誕生した西欧の大学が医学部教育にイスラム医学と占星術を導入して,中世医学の基盤を形成した。
14世紀に黒死病が発生すると身体と魂の健康への不安が募り養生訓が流行した。女性たちは看護や介護を支えてきたが正当に評価されず,さらに月経や母乳,妊娠と出産など女性の身体を男性に従属する存在と見なす偏見についてジェンダーの視点から解明する。
中世の医学と医療の全体像を示す貴重な業績である。