ホーム > 変革する12世紀
目次
はじめに
Ⅰ 革新の世紀への布石
1 越境する人々
2 新しい学知を求めて
3 知の最前線へ
4 12世紀ルネサンス――翻訳の時代
a)エウクレイデスの『原論』
b)プトレマイオスの『アルマゲスト』
c)アリストテレスの翻訳
d)ギリシア語からの翻訳
Ⅱ 伝統と新機軸の相克――君主・諸侯・都市の時代――
1 商業技術の発達とアラビア数字の実用化
2 権威の時代から新機軸の時代へ
3 イタリア諸都市間の抗争と皇帝の介入
4 教会分裂と英独仏間の政治的駆け引き
5 フリードリヒ・バルバロッサとルイ7世
6 イングランドの状況
7 1165年のヴュルツブルクの誓約
8 英仏の思惑
9 第4次イタリア遠征とロンバルディア同盟
10 合意形成と領邦君主
11 ダッセルのライナルト
12 ことばを巡る攻防
a)「beneficium」を巡る争い
b)「帝国の栄誉(honor imperii)」
c)ピサとの協約(conventio)(DDF I. 356, 357)
d)ジェノヴァとの協約(conventio)(DF I. 367)
13 「神聖なる帝国 sacrum imperium」
14 古代ローマの復活 renovatio と復興 restauratio
15 古代ローマの称揚
16 権威か合意形成か
a)1177年のヴェネチアの和約
b)1183年のコンスタンツの和約
17 時代を描く歴史叙述
a)フライジンクのオットーとラへヴィンの『皇帝フリードリヒ1世の事績』
b)都市の記憶――カッファーロとオベルトによる『ジェノヴァ編年誌』
c)モレーナのオットーとその息子による『皇帝フリードリヒのロンバルディアにおける事績についての書』
d)『ロンバルディアの圧搾と服従に関する匿名のミラノ市民の叙述』
e)サレルノ大司教ロムアルドの『世界年代記』
Ⅲ ことばを操る人たち
1 慣習的権利か新たな法制定か
2 1158年のロンカリアの帝国会議
3 時効年限と数的把握
4 権利の更新と保全
5 誓いの法的拘束力――法行為としての誓い
a)相互盟約(coniuratio)
b)イタリア・コムーネの誓約
c)誓約文言書札(breve)から規約書(statutum)へ
d)誓いの声と文字
e)代理誓約――「王の魂にかけて(in anima regis)」
6 儀礼的パフォーマンスと政治的デモンストレーション
7 文書作成と尚書局
a)書記のキャリア形成
b)スタブロ修道院長ヴィーバルト
c)帝国尚書局におけるヴィーバルト
d)ヴィーバルトの書簡写本
e)書簡写本の編纂状況
f)ヴィーバルトと書物
g)ビザンツ外交とヴィーバルト
h)筆頭書記官ヴォルトヴィン
i)ヴィテルボのゴットフリート
8 記憶から記録へ
a)人の記憶の不確かさへの危惧
b)memoria 死者祈念と記憶/想起――概念の拡がり
c)マインツ大司教証書
d)人の心(mens humana)と心の眼(mentis oculus),そして忘却(oblivio)への怖れ
e)皇帝/国王証書と司教証書との相互影響
f)ヴィーバルトと「memoria」
g)文書に対するヴィーバルトの信頼
h)帝国尚書局の書記と「memoria」
i)フランス国王証書と「memoria」
9 合意を保証するもの――証人の記憶と文書による記録
10 教育とキャリア
a)文官への登用と「magister」
b)各地の文官たち
11 移り変わりゆくときへの意識の高まりと今を見つめるまなざし
a)現世の移ろいやすさと天上の国――フライジンクのオットー
b)今を評価する――時代の変化を映し出すことば
c)今を記録する――都市史の登場とイタリア諸都市
d)今を書き継ぐ――イングランドの歴史叙述と時代の目撃者たち
Ⅳ 君侯を描く,君侯が描く――文書メディアと君侯たち――
1 伝統の構築と君主像
2 ヴェルフェン家の野望
3 統治権/王位継承者を巡る争い
4 ザクセン諸侯との対立
5 マティルデとの婚姻
6 ハインリヒ獅子公の誕生とブラウンシュヴァイク――君侯の都市振興政策
7 皇帝フリードリヒ・バルバロッサとの関係の変化
8 キアヴェンナの会見と軍役の義務
9 ハインリヒ獅子公の失墜
10 二つの『スラブ年代記』
11 二つの大公領の剝奪
12 ハインリヒ獅子公の亡命と復権
13 1184年のマインツの宮廷会議と祝祭
14 シチリア王家との結婚交渉
15 プランタジネット朝との結び付き
16 グローバル・リーダーたちを支える家臣団
a)ハインリヒ獅子公の家臣団
b)文書行政と宮廷付き文官たち
c)家人ミニステリアーレン
17 歴史叙述の時代
a)ヴェルフェン家を描く
b)ハインリヒ獅子公を描く
c)イングランドの叙述
18 イェルサレム巡礼
19 歴史を書き継ぐ
ハインリヒ獅子公と歴史編纂
20 ハインリヒ獅子公の文化振興
a)『ハインリヒ獅子公の福音書』
b)カール大帝の後継者として
21 ハインリヒ獅子公の memoria
22 ハインリヒ獅子公の残光
Ⅴ グローバル・ネットワークの形成と歴史叙述――史実とフィクションの狭間で――
1 グローバル・リーダーの育成――リチャード獅子心王とオットー4世
2 選挙資金の調達とケルン商人
3 ケルン商人『善人ゲールハルト』
4 実在のモデル―ゲールハルト・ウンマーセ
5 2人のオットー――この世の栄誉と来世の栄光
6 ジョン欠地王とオットー4世
7 冠位を巡る争い――シュヴァーベンのフィリップとオットー
8 ニーダーラインの諸侯たち
9 決戦への布石
10 「ブーヴィーヌの戦い」を語る
終章 グローバル・リーダーたちの12世紀
1 合意形成を保証する手段と担保
2 都市の躍進と社会的紐帯の変容
3 権威の顕示と合意形成を演出する場
4 ことばを操る
5 共同体の記憶を紡ぐ
結びにかえて――史料の声を聴く
参考文献
図版一覧
年表
系図
あとがき
索引
Ⅰ 革新の世紀への布石
1 越境する人々
2 新しい学知を求めて
3 知の最前線へ
4 12世紀ルネサンス――翻訳の時代
a)エウクレイデスの『原論』
b)プトレマイオスの『アルマゲスト』
c)アリストテレスの翻訳
d)ギリシア語からの翻訳
Ⅱ 伝統と新機軸の相克――君主・諸侯・都市の時代――
1 商業技術の発達とアラビア数字の実用化
2 権威の時代から新機軸の時代へ
3 イタリア諸都市間の抗争と皇帝の介入
4 教会分裂と英独仏間の政治的駆け引き
5 フリードリヒ・バルバロッサとルイ7世
6 イングランドの状況
7 1165年のヴュルツブルクの誓約
8 英仏の思惑
9 第4次イタリア遠征とロンバルディア同盟
10 合意形成と領邦君主
11 ダッセルのライナルト
12 ことばを巡る攻防
a)「beneficium」を巡る争い
b)「帝国の栄誉(honor imperii)」
c)ピサとの協約(conventio)(DDF I. 356, 357)
d)ジェノヴァとの協約(conventio)(DF I. 367)
13 「神聖なる帝国 sacrum imperium」
14 古代ローマの復活 renovatio と復興 restauratio
15 古代ローマの称揚
16 権威か合意形成か
a)1177年のヴェネチアの和約
b)1183年のコンスタンツの和約
17 時代を描く歴史叙述
a)フライジンクのオットーとラへヴィンの『皇帝フリードリヒ1世の事績』
b)都市の記憶――カッファーロとオベルトによる『ジェノヴァ編年誌』
c)モレーナのオットーとその息子による『皇帝フリードリヒのロンバルディアにおける事績についての書』
d)『ロンバルディアの圧搾と服従に関する匿名のミラノ市民の叙述』
e)サレルノ大司教ロムアルドの『世界年代記』
Ⅲ ことばを操る人たち
1 慣習的権利か新たな法制定か
2 1158年のロンカリアの帝国会議
3 時効年限と数的把握
4 権利の更新と保全
5 誓いの法的拘束力――法行為としての誓い
a)相互盟約(coniuratio)
b)イタリア・コムーネの誓約
c)誓約文言書札(breve)から規約書(statutum)へ
d)誓いの声と文字
e)代理誓約――「王の魂にかけて(in anima regis)」
6 儀礼的パフォーマンスと政治的デモンストレーション
7 文書作成と尚書局
a)書記のキャリア形成
b)スタブロ修道院長ヴィーバルト
c)帝国尚書局におけるヴィーバルト
d)ヴィーバルトの書簡写本
e)書簡写本の編纂状況
f)ヴィーバルトと書物
g)ビザンツ外交とヴィーバルト
h)筆頭書記官ヴォルトヴィン
i)ヴィテルボのゴットフリート
8 記憶から記録へ
a)人の記憶の不確かさへの危惧
b)memoria 死者祈念と記憶/想起――概念の拡がり
c)マインツ大司教証書
d)人の心(mens humana)と心の眼(mentis oculus),そして忘却(oblivio)への怖れ
e)皇帝/国王証書と司教証書との相互影響
f)ヴィーバルトと「memoria」
g)文書に対するヴィーバルトの信頼
h)帝国尚書局の書記と「memoria」
i)フランス国王証書と「memoria」
9 合意を保証するもの――証人の記憶と文書による記録
10 教育とキャリア
a)文官への登用と「magister」
b)各地の文官たち
11 移り変わりゆくときへの意識の高まりと今を見つめるまなざし
a)現世の移ろいやすさと天上の国――フライジンクのオットー
b)今を評価する――時代の変化を映し出すことば
c)今を記録する――都市史の登場とイタリア諸都市
d)今を書き継ぐ――イングランドの歴史叙述と時代の目撃者たち
Ⅳ 君侯を描く,君侯が描く――文書メディアと君侯たち――
1 伝統の構築と君主像
2 ヴェルフェン家の野望
3 統治権/王位継承者を巡る争い
4 ザクセン諸侯との対立
5 マティルデとの婚姻
6 ハインリヒ獅子公の誕生とブラウンシュヴァイク――君侯の都市振興政策
7 皇帝フリードリヒ・バルバロッサとの関係の変化
8 キアヴェンナの会見と軍役の義務
9 ハインリヒ獅子公の失墜
10 二つの『スラブ年代記』
11 二つの大公領の剝奪
12 ハインリヒ獅子公の亡命と復権
13 1184年のマインツの宮廷会議と祝祭
14 シチリア王家との結婚交渉
15 プランタジネット朝との結び付き
16 グローバル・リーダーたちを支える家臣団
a)ハインリヒ獅子公の家臣団
b)文書行政と宮廷付き文官たち
c)家人ミニステリアーレン
17 歴史叙述の時代
a)ヴェルフェン家を描く
b)ハインリヒ獅子公を描く
c)イングランドの叙述
18 イェルサレム巡礼
19 歴史を書き継ぐ
ハインリヒ獅子公と歴史編纂
20 ハインリヒ獅子公の文化振興
a)『ハインリヒ獅子公の福音書』
b)カール大帝の後継者として
21 ハインリヒ獅子公の memoria
22 ハインリヒ獅子公の残光
Ⅴ グローバル・ネットワークの形成と歴史叙述――史実とフィクションの狭間で――
1 グローバル・リーダーの育成――リチャード獅子心王とオットー4世
2 選挙資金の調達とケルン商人
3 ケルン商人『善人ゲールハルト』
4 実在のモデル―ゲールハルト・ウンマーセ
5 2人のオットー――この世の栄誉と来世の栄光
6 ジョン欠地王とオットー4世
7 冠位を巡る争い――シュヴァーベンのフィリップとオットー
8 ニーダーラインの諸侯たち
9 決戦への布石
10 「ブーヴィーヌの戦い」を語る
終章 グローバル・リーダーたちの12世紀
1 合意形成を保証する手段と担保
2 都市の躍進と社会的紐帯の変容
3 権威の顕示と合意形成を演出する場
4 ことばを操る
5 共同体の記憶を紡ぐ
結びにかえて――史料の声を聴く
参考文献
図版一覧
年表
系図
あとがき
索引
内容説明
12世紀ルネサンスの時代。地理的かつ知的グローバリゼーションの経験は,長い伝統の中にあった中世ヨーロッパの人々の意識や社会に新機軸をもたらした。
本書は,情勢に翻弄されながらも自己の生き方を貫き,時代のうねりを創り上げたグローバル・リーダーと,彼らの下で教育を基盤にキャリアを積み,行動を通して知識を力へと変えていった宮廷官僚の姿を,幅広い史料に基づき,生き生きと描き出す意欲的作品である。
登場人物は,イタリアに繰り返し遠征した神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサ,その出兵を拒否し対立したハインリヒ獅子公,その結果,追放となり異国イングランドで育てられた息子オットー4世などの人々である。ローマ教皇,ビザンツ帝国,各国の君主や勃興する都市の間で思惑が錯綜する中,外交交渉で圧倒的な力を発揮したのは,ことばを操る能力であった。
著者は,行政文書である皇帝・国王・司教証書の分析を通し,文書化の飛躍的進展の背後にある心性の変化が,時の流れによって損なわれる記憶に対する疑いと,時間意識の変化であり,「今」への強い関心の芽生えであったことを繙く。さらに年代記や事績録,都市史を生み出した中世の歴史叙述の視座から,先人の著作を継承しつつ独自の視点を織り込む記述のあり方が,史実だけでなく人々の理想像をも投影し,共同体の記憶を新たに紡ぎ出すメディアとして機能したことを読み解く。
変革を促す力とは何か。真のボーダーレス時代に導きの道標を探り,文書メディア論に挑んだ先端的業績である。
本書は,情勢に翻弄されながらも自己の生き方を貫き,時代のうねりを創り上げたグローバル・リーダーと,彼らの下で教育を基盤にキャリアを積み,行動を通して知識を力へと変えていった宮廷官僚の姿を,幅広い史料に基づき,生き生きと描き出す意欲的作品である。
登場人物は,イタリアに繰り返し遠征した神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサ,その出兵を拒否し対立したハインリヒ獅子公,その結果,追放となり異国イングランドで育てられた息子オットー4世などの人々である。ローマ教皇,ビザンツ帝国,各国の君主や勃興する都市の間で思惑が錯綜する中,外交交渉で圧倒的な力を発揮したのは,ことばを操る能力であった。
著者は,行政文書である皇帝・国王・司教証書の分析を通し,文書化の飛躍的進展の背後にある心性の変化が,時の流れによって損なわれる記憶に対する疑いと,時間意識の変化であり,「今」への強い関心の芽生えであったことを繙く。さらに年代記や事績録,都市史を生み出した中世の歴史叙述の視座から,先人の著作を継承しつつ独自の視点を織り込む記述のあり方が,史実だけでなく人々の理想像をも投影し,共同体の記憶を新たに紡ぎ出すメディアとして機能したことを読み解く。
変革を促す力とは何か。真のボーダーレス時代に導きの道標を探り,文書メディア論に挑んだ先端的業績である。