目次
第一章 原初的・使徒的経験とその成立根拠をめぐって――「ロゴスの受肉(神人性)」を証しするもの
第二章 証聖者マクシモスの「ロゴス・キリスト論」(『難問集』第一部「トマスに宛てて」)のまとめと展望
第三章 人間的自然・本性の開花・成就と神化の道行き――根底に現前する神的エネルゲイア・プネウマ
一 「善く在ること」ないし「善きかたち」の成立と神的エネルゲイア・プネウマの現存
二 存在の次元における罪の問題――存在(神の名)の生成・顕現に逆説的に関わるもの
三 情念と自己変容――否定・浄化の道行き
四 身体ないし身体性の問題――魂と身体との同時的生成
五 愛による諸々のアレテーの統合――神の顕現のかたち
六 創造と再創造をめぐって――創造における人間の役割
第四章 ロゴス・キリストの十字架と復活――神への道行きの内的根拠をめぐって
一 キリストとの原初的出会いの場に
二 復活の内的経験を問い披く――神的エネルゲイア・プネウマないし神人的エネルゲイアの現存
三 「キリスト自身の範型的信の働き」と「われわれの信」との内的関わり
四 キリストの十字架の象徴的意味とその働き――魂・意志のうちなる神の働き・わざ
五 「十字架による贖い,救い」の内実
六 十字架の階梯と「キリスト的かたちの形成」
第五章 他者との全一的交わりとロゴス・キリストの現存――「受肉の神秘」の前に
一 創造の収斂点としての人間
二 他者との善き関わりとロゴス・キリストの現存
三 受肉の現在 神の憐れみの先行
第六章 神的エネルゲイア・プネウマの現存に思う――探究の道を振り返って
あとがき
註
参考文献
索引
内容説明
「神」とか「キリスト」について,その意味を問うことは,一見宗教的で特殊な事柄のように思われる。しかしそれは時空を超えてすべての人に関わる問題である。このような立場から「ロゴス・キリストの受肉」「受難と復活」,そして「十字架による贖いと救い」といった問題を,「愛智の道行き」としての哲学の観点から「人間・自己の成立に関わる普遍的問題」として,素朴にかつ根源的に明らかにしようとする試みである。
問題を対象化して分析する一般的な方法は,問題の真相を隠してしまうことがある。著者は事柄が成立する原初的な場や意味そしてその機微を,当の場面に立ち帰り,キリストと直に触れ合った使徒や教父に寄り添いつつ,自らのこととして見つめていくことによって,その真実を問い披いてゆく。それにより使徒たちの生の変容や再生,さらに新しい人の誕生を闡明にする。
使徒とキリストとの霊的出会いは神の働き・霊により,否定・無化の働きはキリストと十字架の復活に由来するものであり,さらに証聖者マクシモスは十字架と復活の働きは,時と処を超えて「すべての今」に現前するとした。本書はこれらすべての問題の根底には神的エネルゲイア・プネウマの生動的な働きがあることを解明する。宗教と哲学を架橋する著者の到達点を示す貴重な一書である。