目次
第1章 特性自己概念
1 心理的適応の指標としての自己概念
2 自由記述に現れる自己概念
3 行動傾向の要約としての特性表象――オールポートから特性5因子へ
4 認知的コンストラクトとしての特性概念
5 内的属性としての特性と特性に関する自己概念
第2章 自己呈示と自己概念の分化
1 日常生活における自己呈示と聴衆の分離
2 自己呈示研究の枠組み
(1) 自己呈示の2成分モデル
(2) 対人過程における印象制御
(3) 自己呈示研究の理論的・方法論的問題
3 自己呈示の範囲とターゲット
(1) 範囲
(2) ターゲット
4 自己呈示の動機
(1) 自己呈示の功利的動機
(2) 自己知識が喚起する自己呈示の動機
5 目標となる同一性
(1) 社会的同一性と個人的同一性
(2) 望ましい同一性
6 自己呈示の規定因
(1) 状況的規定因
(2) 個人内要因
7 対人関係と望ましい自己イメージ
第3章 特性自己概念の分化
1 分化した自己概念のモデル
2 分化の指標
(1) 自己概念分化(SCD)とその修正指標
(2) 自己複雑性
(3) 矛盾度
3 分化の指標とパーソナリティの関連
4 特性自己概念の分化と自己愛
5 多重役割設定法による特性自己概念の測定の性質
第4章 関係性と特性自己概念
1 関係性スキーマ
2 関係的文脈と自己概念の分化――特性判断の好ましさによる検討
3 自己高揚動機と自尊心の影響
4 自己概念と他者表象の重複と連合
第5章 特性自己概念の変動
1 密度分布モデル
2 マルチレベルモデリング――個人内分散と個人間分散の分離
3 関係文脈による特性自己概念の変動
4 自己概念の多面性と不安定性
おわりに
引用文献
人名索引
事項索引
内容説明
自己とは何か。心理学は,この深遠でとらえどころのない問いを「人は自分をどのような人物として理解しているのか」に置き直し,自己の姿に関する自己自身の意味的解釈である自己概念に対象を絞り,「慎重な」「外向的」など,言葉により把握される特性自己概念の研究を進展させてきた。本書は,19世紀のウィリアム・ジェームズに端を発し,アメリカを中心に発達してきた心理学の成果と学説史の流れを丁寧に解説しながら,独自の実験と分析に基づいて,自己概念がなぜ変動するのか,その特徴と要因を明らかにする。
自己概念は,他者との相互関係における振る舞いを通じ他者に抱かれたイメージが鏡となって自己自身に映し返されて形成される。多様な他者との関係があれば,様々な自己イメージが作られ,多面的な自己概念を形成していく。こうした自己概念の変動や分化は,一見,不安定な動きに思えるが,実際にはダメージを避けて,精神的安定を生み出す。著者はこの点に立脚し,他者に対して自己のイメージを操作する自己呈示,人の基本的動機である自尊心や,サイコパスとマキャベリアニズムと合わせ暗黒三人格と呼ばれる自己愛にも触れつつ,自己と他者の相互作用と自己概念との関連を考察する。
誰しもが常に感じる自己意識や自己概念は,どのように形成されるのか。心理学の手法により,その実態を解明する基盤的な業績である。