目次
序論
第1章 20世紀のトマス研究
1 第一期:19世紀末から1930年まで
2 第二期:1930年から1980年まで
(1) 第一グループ(存在)
(2) 第二グループ(完全性・分有)
(3) 第三グループ(超越論的トミスムあるいはマレシャル学派)
3 第三期:1980年以後
4 総括
第2章 定動詞estについて――『命題論註解』1巻5講
1 エッセの二つの意味
2 ジルソンによる『命題論註解』の解釈
3 ジルソン説の検証
4 ロッツの「原肯定」説
5 単独のestの表示内容――長倉久子の解釈
6 長倉説の検討――「現実」(actus)と「事物」(res)
7 述語性としての現実性
第3章 エンスの学としての形而上学――『ボエティウス三位一体論註解』
1 形而上学という学の主題
2 形而上学の主題をめぐる論争
3 エンスの非質料性と知性による分離作用
4 『神学大全』におけるエンスの非質料性
5 あらかじめ分離実体の存在を知っておく必要があるか
第4章 エンスとは何か①――『真理論』1問1項
1 エンスについての二つの規定
2 エンスと付加の理論
3 第一に知られるものとしてのエンス
第5章 エンスとは何か②――『形而上学註解』
1 序文における形而上学の主題規定
2 4巻における主題規定
3 5巻における主題規定
4 7・8・12巻における実体論
5 9巻における可能態・現実態論
6 「最も固有の意味でのエンス」(τὸ κυριώτατα ὄν)と真理論
7 結合実体における真
8 単純実体における真
9 単純なものとしてのエンス
10 経験とエンス
終章 エッセとは何か
付論 可能態と現実態
1 今日に言う「現実」とトマスが言う「現実」の相異
2 可能態・現実態の動態的解釈と静態的解釈
3 『自然の諸原理』における質料と可能態
4 『自然学註解』における質料と可能態
5 可能態・現実態の静態的解釈と運動の定義
6 可能態・現実態の静態的解釈による事物の考察
あとがき
文献表
人名索引
事項索引
出典索引
内容説明
トマスの「エッセ」(存在)について,研究が遅れていたトマスのアリストテレス註解書『命題論註解』と『形而上学註解』を検討し新たな解釈を提示する。
エッセの定動詞estや派生語の「エンス」(存在するもの),「エッセンチア」について,『神学大全』や『真理論』などとアリストテレス註解書を照合し,それぞれの概念の意味を考察するとともに,「エッセ」が「存在」だけでは捉えられないことを明らかにする。
第1章では19世紀末から現代までの「エッセ」をめぐるジルソンやファブロ,ロッツなどの議論を踏まえた研究史を検討する。トマスの「エッセ」に関心をもつ読者にとって格好の手引きとなろう。
第2章ではエッセの定動詞estがトマスのエッセ論の核心であり,estを「概念なき述語づけ」と解釈する。
第3章以降では,形而上学の主題である「エンス」を中心に考察される。トマスは,エンスが「エッセ的にも定義的にも質料に依存しない」と言うが,従来十分に論じられてこなかった,このエンスの非質料性とはいかなることかを検討する。
次にエンスを「知性が最初に最もよく知られたものとして捉えるもの」としたトマス自身のこの規定を検討し,人間の経験の根源に,具体的な経験に限定される以前の,普遍的な次元におけるエンスを見出し,そして人間の知性はそのような普遍的な次元におけるエンスに触れるというトマスの結論を踏まえ,エンスは「存在するもの」であるかが考察される。