ホーム > トマス・アクィナスにおける人格(ペルソナ)の存在論
目次
序論
第Ⅰ部 理性的実体としての人ペルソナ格の基本的構造
第一章 人間論的概念としてのペルソナの輪郭
序
第1 節 ペルソナと理性:ペルソナの自己支配
第2 節 はたらきの基体としてのペルソナ
第3 節 所与としての完全性と課題としての完全性
第4 節 神のペルソナと人間のペルソナ:「知性」と「理性」
結論
第二章 人格(ペルソナ)の自己根源性:被造物としての人間の自立性
序
第1 節 『神学大全』における人間論の位置づけ
第2 節 「原因性」を付与するより高次の「原因性」としての「創造」
第3 節 第一作用者と第二次作用者との関係の分析
第4 節 「原因性」と自己根源性の相違
結論 意志的能力の二重構造の示唆している人間の関係的な自立性
第Ⅱ部 存在充足としての認識活動
第三章 知性認識における人格(ペルソナ)の自立性と関係性
序
第1 節 魂の本質(essentia)と諸能力(potentiae)との区別
第2 節 ペルソナにおける存在とはたらき
第3 節 知性認識における自立性と関係性
結論
第四章 神認識における人格(ペルソナ)の自立性と関係性:神の把握不可能性の含意するもの
序
第1 節 カール・ラーナーの解釈への批判
第2 節 自然的理性による神認識の限界
第3 節 神の把握可能性と把握不可能性
第4 節 至福者の認識様態
第5 節 神の把握不可能性の含意するもの
結論 「把握」の場合分けの持っている意味
第五章 トマスの沈黙: 存在充実の徴としての沈黙
序
第1 節 人間理性の自己超越的構造
第2 節 沈黙の次元への開き
結論
第Ⅲ部 存在充足の運動としての愛
第六章 根源的な受動性としての愛:人格(ペルソナ)の全体性における情念の意味
序
第1 節 情念と倫理的な善悪
第2 節 passio の意味の三区分
第3 節 情念としての愛の特質
第4 節 三種類の「一致」とその相互関係
結論 受動的な情念から能動的・意志的な活動への転換
第七章 人格(ペルソナ)の相互関係:友愛における一性の存在論
序
第1 節 アリストテレス友愛論への依存と相違
第2 節 自己愛と他者愛:一性の存在論による基礎づけ
第3 節 自己性と他者性の相関関係
第4 節 存在することとはたらきを為すこと:「善の自己拡散性」という観点から
結論 愛における自己還帰性と自己伝達性
第八章 徳(virtus)としての愛(caritas):愛における人間の自立性と関係性
序
第1 節 ニーグレンのアガペー理解
第2 節 「カリタス的総合」と「幸福論的な問い」
第3 節 トマスのカリタス理解:「徳」としての「愛(カリタス)」
第Ⅳ部 存在充足の原理としての自然法
第九章 トマス自然法論の基本構造:自然法の第一原理
序
第1 節 トマス自然法論の基本構造
第2 節 基本善の曖昧性の積極的意味:善き生の大まかな輪郭の描出
第3 節 自然法と実定法の二元論の克服
第4 節 人間理性の規範的性格
結論
第十章 自然法と万民法:トマスからスアレスへ
序
第1 節 ローマ法における「万民法」概念の位置づけ
第2 節 スアレスの万民法概念:「諸民族のあいだの法」と「諸民族の内部の法」
第3 節 スアレスの自然法概念
結語
第Ⅰ部 理性的実体としての人ペルソナ格の基本的構造
第一章 人間論的概念としてのペルソナの輪郭
序
第1 節 ペルソナと理性:ペルソナの自己支配
第2 節 はたらきの基体としてのペルソナ
第3 節 所与としての完全性と課題としての完全性
第4 節 神のペルソナと人間のペルソナ:「知性」と「理性」
結論
第二章 人格(ペルソナ)の自己根源性:被造物としての人間の自立性
序
第1 節 『神学大全』における人間論の位置づけ
第2 節 「原因性」を付与するより高次の「原因性」としての「創造」
第3 節 第一作用者と第二次作用者との関係の分析
第4 節 「原因性」と自己根源性の相違
結論 意志的能力の二重構造の示唆している人間の関係的な自立性
第Ⅱ部 存在充足としての認識活動
第三章 知性認識における人格(ペルソナ)の自立性と関係性
序
第1 節 魂の本質(essentia)と諸能力(potentiae)との区別
第2 節 ペルソナにおける存在とはたらき
第3 節 知性認識における自立性と関係性
結論
第四章 神認識における人格(ペルソナ)の自立性と関係性:神の把握不可能性の含意するもの
序
第1 節 カール・ラーナーの解釈への批判
第2 節 自然的理性による神認識の限界
第3 節 神の把握可能性と把握不可能性
第4 節 至福者の認識様態
第5 節 神の把握不可能性の含意するもの
結論 「把握」の場合分けの持っている意味
第五章 トマスの沈黙: 存在充実の徴としての沈黙
序
第1 節 人間理性の自己超越的構造
第2 節 沈黙の次元への開き
結論
第Ⅲ部 存在充足の運動としての愛
第六章 根源的な受動性としての愛:人格(ペルソナ)の全体性における情念の意味
序
第1 節 情念と倫理的な善悪
第2 節 passio の意味の三区分
第3 節 情念としての愛の特質
第4 節 三種類の「一致」とその相互関係
結論 受動的な情念から能動的・意志的な活動への転換
第七章 人格(ペルソナ)の相互関係:友愛における一性の存在論
序
第1 節 アリストテレス友愛論への依存と相違
第2 節 自己愛と他者愛:一性の存在論による基礎づけ
第3 節 自己性と他者性の相関関係
第4 節 存在することとはたらきを為すこと:「善の自己拡散性」という観点から
結論 愛における自己還帰性と自己伝達性
第八章 徳(virtus)としての愛(caritas):愛における人間の自立性と関係性
序
第1 節 ニーグレンのアガペー理解
第2 節 「カリタス的総合」と「幸福論的な問い」
第3 節 トマスのカリタス理解:「徳」としての「愛(カリタス)」
第Ⅳ部 存在充足の原理としての自然法
第九章 トマス自然法論の基本構造:自然法の第一原理
序
第1 節 トマス自然法論の基本構造
第2 節 基本善の曖昧性の積極的意味:善き生の大まかな輪郭の描出
第3 節 自然法と実定法の二元論の克服
第4 節 人間理性の規範的性格
結論
第十章 自然法と万民法:トマスからスアレスへ
序
第1 節 ローマ法における「万民法」概念の位置づけ
第2 節 スアレスの万民法概念:「諸民族のあいだの法」と「諸民族の内部の法」
第3 節 スアレスの自然法概念
結語
内容説明
本書はペルソナ・人格の存在論的構造を徹底的に分析,トマスの存在論的な人間論の構造を,「存在の充実」という観点から認識論と存在論の統一的視点で解明し,「人格の存在論」を構築する。「ペルソナ」概念は三位一体論やキリスト論の神学的主題であり,トマスも主にそのような文脈で使用するが,人間についてはその自立性と一性を存在論的に説明するときに使用された。
トマスはペルソナを,完全性と全体性という特質を持ち,理性的な本性において自存する個体と規定する。最も完全なものであるペルソナには「存在の十全性」と「目的との関係」の二つの完全性が帰属するが,それは人間が孤立して完全性を生まれながらに持つのではなく,自らの外にある目的との関係,目的志向的なあり方をとおして獲得するものである。人間存在は自己完結的ではなく,他者と世界との関係形成をとおして自己自身を乗り越え新しい自己を形成していく。そこには「存在する」こと自体がもつ力動性が前提されている。
トマスの人間論はアリストテレスやキリスト教の人間論と連続するとともに,ペルソナ・人格の自立性・自律性という近代的な人間論の萌芽として捉えることもでき,ルネサンスにおける個の誕生という通念では説明できない中世の新しい側面が明らかにされる。
倫理学と存在論の相互連関の観点から,トマスのテキストの厳密で正確な読解と現代的意義の探究を兼ね備え,創造的な再解釈に挑んだ画期作。
トマスはペルソナを,完全性と全体性という特質を持ち,理性的な本性において自存する個体と規定する。最も完全なものであるペルソナには「存在の十全性」と「目的との関係」の二つの完全性が帰属するが,それは人間が孤立して完全性を生まれながらに持つのではなく,自らの外にある目的との関係,目的志向的なあり方をとおして獲得するものである。人間存在は自己完結的ではなく,他者と世界との関係形成をとおして自己自身を乗り越え新しい自己を形成していく。そこには「存在する」こと自体がもつ力動性が前提されている。
トマスの人間論はアリストテレスやキリスト教の人間論と連続するとともに,ペルソナ・人格の自立性・自律性という近代的な人間論の萌芽として捉えることもでき,ルネサンスにおける個の誕生という通念では説明できない中世の新しい側面が明らかにされる。
倫理学と存在論の相互連関の観点から,トマスのテキストの厳密で正確な読解と現代的意義の探究を兼ね備え,創造的な再解釈に挑んだ画期作。