目次
第一章 タウラーの思想宇宙
第一節 ドイツ神秘主義とエックハルト
第二節 タウラーの心理学的・修養的神秘主義
第二章 テクスト問題
第一節 十四世紀タウラー古写本の特徴
第二節 フェター編集本と定本問題
第三章 タウラーにおける「キリスト信従」(nachvolgunge)
第一節 キリストとは誰か――自由心霊派への批判の焦点
第二節 キリスト像のはたらき
(1) 「像」(bilt)の伝統的解釈
(2) 超越し内在するロゴス=魂における光であり,言である神性
(3) キリストの人性としての「像」
(4) 人間の自己形成の模範としてのキリスト像
(5) 聖体としてのキリスト
第三節 タウラーの霊的指導とキリスト像
第四節 ドイツ神秘主義のキリスト像――エックハルトとゾイゼの場合
第五節 若きルターのキリスト像
第四章 タウラーのグルント神秘主義
第一節 グルント概念についての先行研究
第二節 エックハルトにおけるグルント概念
(1) 新プラトン主義的傾向性とそのキリスト教的立場(説教五二,一〇による)
(2) エックハルトにおけるグルントの意味
第三節 タウラーにおけるグルント概念
(1) 新プラトン主義的傾向性を超えて
(2) タウラーにおけるグルントの意味
第四節 タウラーにおけるグルント概念の新たな観点
(1) エックハルトのグルント概念とタウラー
(2) タウラーのグルント概念の心理学的特徴――被造性と堕落の危険
(3) グルントへの人間全体の統合化
第五章 タウラーの神秘主義的教導のプログラム
第一節 神との直接的交流の回復と魂の「転回」
第二節 タウラーの魂論と浄化の道程
第三節 キリスト神秘主義――秘跡と模範
第四節 「神の友」の理想像
第五節 タウラー神秘主義の現代的意味
付論 タウラーの説教における比喩表現
第一節 「幸いな目」(beati oculi)の喩え
(1) 説教[A][B][C]の精神的位置――成立の状況および内容
(2) 〈幸いな目〉の意味するもの
第二節 比喩の諸相
あとがき
文献表
索引
内容説明
ヨハネス・タウラー(1300-61)は,エックハルト,ゾイゼとともにドイツ神秘主義の三巨星の一人として神秘思想史に名を残した。彼はペストなど社会的にも混乱を極めた中世末期に,ドミニコ会修道女やベギンあるいは「神の友」運動の人々を教導する説教司牧に専念し,神と魂の「合一」を目指した。
タウラーは神学者である「読師」の道を選ばず,霊的指導に専念する「生師」の道を歩み,著作はほとんどないが,多岐にわたる独自の説教を展開している。
彼はエックハルトから強い影響を受けたが,エックハルトの異端嫌疑のため,表向きは彼に言及することはほとんどなく,また神と魂は全く異なる存在であるとして異端からの距離をとった。
キリスト教神秘主義は,浄化,照明,合一の三階梯からなる霊的過程をたどるが,彼の神秘思想は「受難のイエス・キリスト」への信従の修練を基礎とする。「信従」とは人間の魂が神との合一を目指すなかで聖霊により浄化されていく過程であり,それに即してタウラーの神秘主義的教導のプログラムが展開された。
本書は多くの説教を駆使するとともに,エックハルトの根底概念との比較などを通して,タウラー神秘主義の独自性を明らかにし,さらにその現代的意義をも示した他に類書のない貴重な業績である。