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人のゲノム編集をめぐる倫理規範の構築を目指して

人のゲノム編集をめぐる倫理規範の構築を目指して
著者 田坂 さつき
香川 知晶
ジャンル 哲学・思想 > 生命倫理
出版年月日 2022/03/25
ISBN 9784862853585
判型・ページ数 菊判・290ページ
定価 本体3,600円+税
在庫 在庫あり
 

目次

はじめに(田坂さつき)

第1章 ヒト遺伝子ゲノム編集,何を考えるべきなのか(香川知晶)
 はじめに
 1 ゲノム編集技術と生殖細胞系列/体細胞の区別
 2 第1回ヒトゲノム編集国際サミット
 3 安全性の問題と原理的疑問
 4 生殖細胞系列/体細胞の区別から臨床応用/基礎研究の区別へ
 5 「ドアは完全には閉じられていない」,そして「脇によけて道を空けろ」
 6 倫理的分析と民主的検討の必要性
 おわりに

第2章 生殖細胞系列ゲノム編集により生み出された人々に対する責任の所在(石井哲也)
 1 遺伝子改変を伴う生殖の現状と責任の行方
 2 GGEがもたらすリスクと負担,潜在的な害
 3 GGEにより生まれた人々の社会的地位
 4 ヒトGGEに対する責任の所在と政策
 5 日本はGGEの責任をどう考えるか

第3章 ヒト生殖細胞系列へのゲノム編集を制限する理由――宗教文化との関わり(島薗 進)
 1 ゲノム編集を施した子の誕生と倫理問題
 2 日本でどのような議論がなされてきたか?
 3 過剰な医療を押しとどめる理由
 4 授かりものとしてのいのち
 5 エンハンスメントによって失われるもの
 おわりに

第4章 技術の問題として見たゲノム編集と倫理(土井健司)
 はじめに
 1 ゲノム編集の向かう先
 2 科学者の目的意識
 3 行為の論理構造の転換
 4 科学者の責任についての「広い見方」
 むすびに替えて

第5章 危害,非同一性,第一線のゲノム編集の候補(ドミニク・ウィルキンソン/川崎優訳)
 1 イントロダクション
 2 背景
 3 賀建奎の実験
 4 過度のリスク
 5 非同一性問題
 6 非同一性と遺伝子編集の関連性
 7 反論
 8 二次元的見解(The two-dimensional view)
 9 非同一性のケースのいくつかのタイプ
 10 最後のチャンス再考
 11 結論

第6章 ゲノム編集問題をめぐる害と非同一性――ウィルキンソンの議論に寄せて(一ノ瀬正樹)
 1 技術適用の宿命
 2 技術適用への問いの基本方針
 3 「非同一性」の議論
 4 個人的影響と非人格的選択
 5 「非同一性」への疑問
 6 ゲノム編集と反事実的条件文

第7章 ゲノム編集の生殖への応用の正当性を問う(田坂さつき)
 はじめに
 1 ゲノム編集の生殖応用に関する諸外国の動き
 2 研究推進の背景
 3 今後の課題

第8章 遺伝性ヒトゲノム編集における被験者保護の倫理(松原洋子)
 はじめに
 1 規制科学としてのHHGE
 2 HHGEの倫理的争点における被験者保護の不在
 3 被験者保護の原則とART臨床研究の乖離
 4 HHGE臨床研究のデザインと問題点
 おわりに

第9章 「ヒト胚等のゲノム編集」に関する社会調査から見えてくるもの(柳原良江)
 はじめに
 1 方法
 2 ゲノム編集全般に対する意識
 3 ヒト胚等に対するゲノム編集への意識
 4 ヒト胚等に対するゲノム編集の規制
 5 制度化にむけて
 おわりに

提言 人の生殖にゲノム編集技術を用いることの倫理的正当性について
 要旨
 1 はじめに
 2 現状及び問題点
 3 提言
 (用語解説)
 〈参考文献〉
 〈参考資料1〉
 〈参考資料2〉世論調査
 〈参考資料3〉学術フォーラム・サイエンスカフェ・学会ワークショップ

あとがき(香川知晶)
執筆者紹介
索引

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内容説明

ゲノム編集は生物の遺伝子の一部を入れ替える革新的な技術である。とくに〈クリスパー・キャスナイン〉という新たな手法により,特別の知識や技術を必要とせず,しかも安価に植物,動物,ヒトの遺伝子の培養細胞・ES細胞・ips細胞・受精卵などあらゆる細胞を利用でき,急速に広がっている。それとともに他の遺伝子まで切断する「オフターゲット」や修復された細胞とされない細胞が混在する「モザイク」など副作用も問題となる。
ゲノムの編集技術は,世代を超えて「良いゲノム」に変える優生学的対応,また目の色や体質だけでなく運動能力や体格,知能指数を操作するエンハンスメントへと拡大する可能性をもっている。
従来,遺伝子操作は精子,卵子,受精卵といったヒトの生殖細胞系列は対象としないという国際的了解があった。しかし2018年に中国の研究者らが生殖細胞系列のゲノム編集により人間の子を誕生させたと発表したのを機に,ノーベル賞学者や科学者,医学者など各界からの批判と議論が世界的に展開した。
わが国の人文系三学会も初めて共同声明を出し「遺伝子改変が世代を超えて不可逆的に子孫に伝わり……。このことの是非は医学者・科学者や特定疾患の患者や関係者だけに関わるのではなく,人類全体の未来に関わるきわめて重い倫理的問題」として国民的議論を要請した。
本書は2020年に日本学術会議が出した「提言」を踏まえて哲学・倫理の人文科学系の研究者が,ヒト受精胚の扱いを中心に本格的に検討した貴重な成果である。

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