目次
はじめに(ブレット・クリストファーズ)
序
謝意
序文
第1章 国民経済計算の偏在性・重要性・独自性
第2章 歴史的・政治的に偶発的に生じた技術としての国民経済計算
1 国民所得推計に関する専門技術の歴史
2 機械仕掛けのGDP――国民経済計算に関する政治経済学からの批判
3 理論は十分ではない
第3章 政策をベースとする証拠――国民経済計算の政治史
1 経済理論を超えて――数の修辞学としての政治算術
2 国民国家の興隆――国際的競争と国民経済の政策
2.1 国民所得推計の目的
2.2 国民所得計算の制度的状況
2.3 ドイツとイタリアにおける国民所得推計の興隆
3 パクス・ブリタニカ――他に類をみない段階にあったイギリスのヘゲモニー
4 国際競争の回復と中央集権的経済計画の到来
5 まがいものの普遍主義――統計的冷戦
6 まがいもののグローバリゼーションと国民経済計算の金融化
第4章 GDPの金融化
1 金融のための会計
2 付加価値が帰属する金融サーヴィスと他のサーヴィス部門
3 産出と最終的使用価値
4 実証的なFGDPの推計
結論
付録4-A FGDPの国民経済計算の収入・支出側とFGDPとの一致
A1 理論的根拠
A2 FGDPと支出面を一致させる
A3 収入面のFGDPの一致
第5章 FIREにもとづく――GDP金融化,不況,総需要からの漏出
1 より正確な総計の必要性
2 金融化
3 変動のしやすさ――統計的蜃気楼としてのグレートモデレーション
4 先行指標としてのGDP
5 FGDPとGDPの比較の予測
6 総需要,生産,そして雇用
7 オークンの復讐――生産額と失業の変動
8 総需要と通貨の流通速度
第6章 FGDPによる分配の衝撃
1 支出のカテゴリーによる需要構造の変化
2 所得による分配の含意
3 平均所得や可処分所得に対する意義
第7章 結論
解説
GDPの計測方法/SNAと金融/政治算術家と国民経済計算/金融化するGDP/FGDPの有効性/結語
訳者あとがき
文献表
索引
内容説明
GDPは経済の実態を示しておらず,有効な経済指標ではないのではないか。本書はこのような問題意識から出発し,現実の国民経済計算を分析した成果である。国民経済計算は17世紀のペティによる政治算術に始まり,歴史的には時代の政治的配慮と相即して発展した。
GDPの計算の国際基準が1993年と2008年に改訂され,さらに金融部門の勃興により,国民経済計算体系は大きな影響を受けた。従来の生産分門を中心とするGDPに対し,新たに金融,保険,不動産などを組み込むことにより,その実態が大きく変容した。著者はGDPから金融サービスを控除したFGDPの概念を使い,GDPの金融化の理論的・政策的意義を分析,GDPよりFGDPの方が,経済現象を整合的に捉えるうえで有効なことを示した。
GDPは数多くある経済指標の中でも,実際の生活に浸み込んだ代表的な指標であり,経済成長をはじめ政策論の基盤をなすものである。それが実体とかけ離れ,政治や市場の影響を受けているならば,見過ごすことができない事態であろう。大学の授業もなく,専門の研究者も少なくなり,EU,OECD,IMF,世界銀行など国際的な金融機関との関連が強まる中,グローバル社会の下でますます重要な役割を担っているGDPのあるべき姿が,いま問われている。理論,計量,数理経済学や経済思想の研究者たちがこの問題に取り組むことが期待される。