異文化間交易とディアスポラ
近世リヴォルノのセファルディム商人
著者 | フランチェスカ・トリヴェッラート 著 和栗 珠里 訳 藤内 哲也 訳 飯田 巳貴 訳 |
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ジャンル | 歴史 |
出版年月日 | 2019/09/05 |
ISBN | 9784862852991 |
判型・ページ数 | 菊判・592ページ |
定価 | 本体8,000円+税 |
在庫 | 在庫あり |
目次
用語と単位について
略語一覧
序章
1 リヴォルノ,半ば忘れられた現実
2 小規模なグローバル・ヒストリー
3 ディアスポラ,信用,異文化間交易
4 商業と文化――ユダヤ人,商人,異文化間仲介業者(ブローカー)
第1章 ディアスポラの家族とビジネス・パートナーシップの形成
1 リヴォルノのエルガス家
2 イベリア半島からリヴォルノへのシルヴェラ家の移住
3 エルガス=シルヴェラ商会
第2章 リヴォルノと西欧の離散セファルディム
1 ヨーロッパにおける離散セファルディムの輪郭
2 トスカーナのセファルディム
3 イベリアからヨーロッパ北部へ
4 リヴォルノと東方世界
第3章 新しい都市,新しい社会?――リヴォルノ,ユダヤ人ネイション,共同体的コスモポリタニズム
1 リヴォルノにおけるユダヤ人と他のネイション
2 セファルディム貴族――統合された生活と分離された生活
3 ユダヤ人ネイション内における共同体の闘争
第4章 国家の商業力と商業に従事するディアスポラ――地中海におけるセファルディム
1 リヴォルノ港とユダヤ人商人
2 ユダヤ人商人と地中海貿易のパターン変化
3 西方系セファルディムとアレッポのフランス人
第5章 結婚,嫁資,相続と商社の形態
1 結婚,嫁資と商人の資本
2 親族,契約,ネットワーク
第6章 委託代理業,経済に関する情報,事業提携の法的・社会的基盤
1 信用,契約,法廷
2 ネットワーク,集団の規律,情報
3 商人の書簡と委託代理業
4 商業通信と印刷された経済ニュース
第7章 異文化間交易と,商人が作成する書簡のしきたり
1 使用言語
2 手本としきたり
第8章 エルガス=シルヴェラ商会の異種交易ネットワーク
1 アレッポ,レヴァント,北アフリカ
2 ヴェネツィア
3 ジェノヴァ
4 アムステルダム
5 ロンドン
6 マルセイユ
7 リスボン
8 ゴア
第9章 地中海産サンゴとインド産ダイヤモンドの交易
1 地中海産サンゴ――漁,加工,取引
2 インド産ダイヤモンドとヨーロッパ商業――1600年頃-1730年
3 機能する異文化間連携
4 リスボンからロンドンへ――1740年代におけるインドとのダイヤモンド貿易
第10章 巨大ダイヤモンド事件――商人と訴訟
1 七つの地域をめぐる旅,あるいは終わりの始まり
2 破産と嫁資
3 リヴォルノのユダヤ人――市場と法廷のあいだで
結論
訳者あとがき
参考文献
索引
内容説明
コロンブスの大西洋横断,ヴァスコ・ダ・ガマのインド到達で火蓋が切られた大国による貿易戦争の陰で,商業の民は重要なニッチを奪う激しい競争を展開した。
本書は「小規模なグローバルヒストリー」という手法で1590年代以降イタリアの港湾都市リヴォルノを拠点に活動したセファルディム系ユダヤ人のエルガス=シルヴェラ商会に注目し,18世紀末の倒産に至るまでの活動を13,670通もの商業書簡を活用し明らかにした画期的業績。
彼らは15世紀のイベリア半島から追放されたユダヤ人の子孫で,各地のユダヤ人と繋がる一方,キリスト教徒やヒンドゥー教徒とも信用関係を構築し,地中海のサンゴとインド産のダイヤモンドの取引で成功を収めつつも,予期せぬ失敗で破滅していく。
国家を持たないディアスポラ商人が多くの代理人を介して交易するシステムを,親族間の信頼による利点と限界,メディチ家やハプスブルク家の政治的諸権力との関係,独特な結婚や贈与の仕組みなどを通して考察し,更に互いに全責任を負う伝統的な包括的パートナーシップの実態を解明する。合わせて,委託管理業における情報ネットワークや法的諸制度の役割をも詳しく検討する。
著者は多くの個別史料を収集・検討して,ヨーロッパ近世の商業社会のネットワークが広範囲にわたり生動的に展開していく姿を描き,従来の図式に一石を投ずる。今日のグローバル化する世界で激しく変容している商業交易を考える上でも多くの手がかりを与えるに違いない。