目次
凡例
緒言
序章 歴史的シリアのキリスト教
一 キリスト教の成立と発展
二 イスラームとの交錯
三 イブラーヒーム・パシャのシリア統治とオスマン帝国のタンズィーマート改革
四 聖地問題とクリミア戦争
五 本書の構成
第一章 事件の背景と概略
一 史料と研究史
二 キリスト教徒側の背景分析
三 レバノン山騒乱の推移
四 ダマスクス事件の展開
第二章 身辺の備忘が史書になるまで――ミーハーイール・ミシャーカ
一 人物・史料・一族
二 略伝・著作・主な活動
三 ミーハーイール・ミシャーカが遭遇した一八六〇年事件
四 事件の省察・再建・晩年
第三章 ある司祭の殉教――ユースフ・アッディマシュキー
一 人物・史料・略伝
二 書簡集より見た活動
三 事件と殉教
四 一粒の麦もし死なば
第四章 故郷を捨てて故郷を憶う――アルビーリー父子
一 人物・史料・事件まで
二 アルビーリー父子の見た「事件」
三 ベイルート,そして米国へ
四 息子たちの活動
第五章 イスラーム教徒名望家の見た事件――ムハンマド・アブー・アッスウード・アルハスィービー
一 人物・史料・系譜
二 事件の背景と顚末
三 名望家たちの証言
四 名望家たちによる事件への反応
第六章 キリスト教徒を救ったムスリム――アブド・アルカーディル・アルジャザーイリー
一 人物・史料・アミール推戴
二 アルジェリアにおける聖戦
三 流謫と一八六〇年事件
四 求道者としての晩年と子孫
第七章 処刑されたダマスクス総督――アフマド・パシャ
一 人物・史料・洋行
二 軍学校長・クリミア戦争
三 騒乱と原因――陰謀か偶発か
四 処断と実像
第八章 事件のその後と終わらぬ問題
一 ダマスクスにおける事件処断
二 レバノン山の事件処理
三 アンティオキア総主教座における「アラブの復興」
四 米国のアラブ・キリスト教徒共同体
結語
後記
『シリアの嘆息』(和訳)
『悲哀の書』(和訳)
『シリアの嘆息』(アラビア語原文)
『悲哀の書』(アラビア語原文)
地図
年表
参考文献
索引
英文要旨
内容説明
1860年,オスマン帝国統治下にあったシリアの中心都市ダマスクスで発生した宗派抗争事件は,多くの犠牲者と広範囲にわたる商店や家屋,宗教施設の破壊という甚大な被害を出した。この事件は,これまで必ずしも正面から扱われてこなかったが,本書は,事件関係者の回想や記録文書など多くの一次史料を収集し,事件の政治的・外交的側面だけでなく,宗教的・社会的側面にも光を当てる意欲的な研究成果である。
中東におけるキリスト教徒共同体の歴史と性格,イスラーム支配下におけるキリスト教徒の境遇,さらにはオスマン帝国の近代化政策や,欧州列強の角逐と諸教会の関係など,広範な視点から時代背景を解説。その上で著者は,事件に直面した3人のキリスト教徒と3人のイスラーム教徒を選び,人物像や一族の歴史,事件に際してのそれぞれの思考や行動を詳細に分析し,1860年事件の多角的で包括的な解明を試みる。終わりに,事件発生後の顚末をたどり,後世に及ぼした影響をも指摘する。
付録として,未だ写本しかないアラビア語史料の中から重要な二作品を初めて校訂・翻訳し,収録する。
わが国でも知られていないこの事件の全貌を通して,現代の中東をより深く知るためにも,歴史的背景や多くの知見を提供する,示唆に富む書物である。