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ロシア綿業発展の契機

ロシア更紗とアジア商人

ロシア綿業発展の契機
著者 塩谷 昌史
ジャンル 歴史 > 経済史
出版年月日 2014/02/25
ISBN 9784862851796
判型・ページ数 菊判・288ページ
定価 本体4,500円+税
在庫 在庫あり
 

目次

第一部
序章 視角と方法
Ⅰ はじめに
Ⅱ 分析の手法
 1.民俗学と歴史研究(民俗学とモノ研究/庶民の観点から見た歴史)
2.自然と人間(自然環境と歴史/モノから見る,自然と人間の関係)
3.跨境史とアジア認識(近代世界システムとアジア/アジアの台頭と近代ヨーロッパの相対化)
Ⅲ ロシア経済史研究における本研究の位置付け
1.連続説と断絶説
2.唯物史観とロシア革命史観
3.ソ連崩壊後のロシア史研究
Ⅳ 本書の課題と方法

第二部 更紗の生産
第1章 ロシア綿工業の発展とアジア向け綿織物輸出
Ⅰ はじめに
Ⅱ ロシア綿工業の発展
1.ロシアの最初の綿業発祥地:アストラハン
 2.サンクト・ペテルブルクと中央工業地域における綿工業の発展
Ⅲ ロシアの対アジア貿易
 1.19世紀前半におけるロシアの貿易構造
 2.19世紀前半におけるロシアの対アジア貿易(1800-1860年)(アジア向け輸出/アジアからの輸入)
Ⅳ ロシアのアジア向け綿織物輸出
1.ロシアが綿織物を輸出した背景
 2.アジア向け綿織物輸出の増加
 3.中央アジア綿織物市場における露英競争
Ⅴ 結び

第2章 ウラジーミル県(イヴァノヴォ)における更紗生産の発展――染色工程が牽引する工業化
Ⅰ はじめに
Ⅱ ウラジーミル県前史
1.ウラジーミル県の地理
2.ドイツ系染色法の普及
Ⅲ 染色と化学
1.綿糸輸入と染色業の発展
2.蒸気機関と染色
3.媒染剤と染料
Ⅳ 綿織物の流通
1.企業と卸売商人
 2.行商人と遠隔地市場
Ⅴ 染色業が牽引する生産工程の革新
1.紡績工程と織布工程の統合
2.三部門結合工場の具体例
3.学校の萌芽:熟練技能から知識労働へ
Ⅵ 結び:ロシアと中央アジア

第三部 更紗の流通
第3章 ニジェゴロド定期市における綿織物の取引
Ⅰ はじめに
Ⅱ ニジェゴロド定期市の特徴
1.ニジェゴロド定期市と外国貿易
2.国際商業におけるニジェゴロド定期市の位置
Ⅲ ニジェゴロド定期市における取引
1.ロシア商品
2.ヨーロッパ商品
3.アジア商品
Ⅳ アジアの結節点としてのニジェゴロド定期市
1.清の商品
2.中央アジアの商品
3.ペルシアの商品
Ⅴ 定期市の取引額に占める綿織物の位置
1.綿織物取引に占める各地域の割合
2.ロシア製綿織物
3.ヨーロッパ製綿織物
4.アジア製綿織物
Ⅵ 結び

第4章 アジア商人の商業ネットワークとロシアの綿織物輸出
Ⅰ はじめに
Ⅱ ロシアとペルシア間の商業ネットワーク
1.ロシアとペルシア間の貿易前史
2.ロシアのペルシア向け綿織物輸出
3.ギリシア商人の台頭と英国更紗の拡販
Ⅲ ロシアと中央アジア間の商業ネットワーク
1.ロシアとブハラ間の貿易前史
2.ロシアと中央アジア間の貿易ルート
3.ロシアの中央アジア向け綿織物輸出
Ⅳ ロシアと清間の商業ネットワーク
1.露清貿易の前史
2.露清貿易の貿易ルート
3.ロシアの清向け綿織物輸出
Ⅴ 結び

第四部 更紗の消費
第5章 アジア綿織物市場におけるロシア製品の位置
Ⅰ はじめに
Ⅱ タブリーズの綿織物市場(ペルシア)
1.更紗市場
2.キャラコ市場
3.ペルシア市場に綿織物を輸出した商人
Ⅲ ブハラ綿織物市場(中央アジア地域)
1.伝統的綿織物市場
2.ブハラ綿織物市場へのロシア製品の参入
3.ブハラ綿織物市場への英国製品の参入
4.ブハラ市場に綿織物を供給した商人
Ⅳ キャフタ綿織物市場(清)
1.清製綿織物市場
2.ロシア製綿織物市場
3.英国製綿織物市場
4.キャフタ市場に綿織物を輸出した商人
Ⅴ 結び

第6章 ロシア製綿織物と服飾文化の変容
Ⅰ はじめに
Ⅱ ヨーロッパの経験
 1.フランスにおける捺染業の発展
 2.更紗の大量生産化と 外国市場
Ⅲ ロシアにおける服飾文化の変容
 1.アジア製織物のロシア社会への影響
 2.19世紀前半における服飾文化の変容
 3.19世紀後半における服飾文化の変容
Ⅳ 中央アジアにおける服飾文化の変容
 1.中央アジアの繊維産業
 2.中央アジアの綿織物消費(サマルカンド/トゥルクメン/タシケント/キルギス)
3.ペルシアの綿織物消費
Ⅴ 結び

第五部 結論
終章 ロシア更紗とアジア商人??―近代の始まり
Ⅰ 遠隔地貿易の転換
1.近代以前の貿易:自然環境の相違を活かした商品の取引
 2.近代以降の貿易:国際的水平分業システム
Ⅱ ロシアの初期工業化
1.工業化以前のロシア
2.工業化以後のロシア
Ⅲ 19世紀前半の意味:近代の始まり
1.工業化:自然環境の克服
2.憧憬:革新の原動力

あとがき

参考文献/索引

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内容説明

帝政ロシアとりわけ19世紀前半におけるロシア綿業の発展を通して,ロシアの初期工業化の実態を解明する。通説では1870~80年代にロシアで産業革命が起こったとされ,ヨーロッパと比べて後発工業国と位置づけられてきたのは,ロシアの綿製品が自国での消費とアジア市場への輸出を主とし,ヨーロッパに輸出されなかった事情による。
従来のロシア史研究ではソ連邦の成立で,帝政史を否定的に見る傾向と,唯物史観によるイデオロギー的考察という要因が働き,必ずしも歴史の実態を反映しなかった。
ロシアはアジアから綿織物を輸入していたが,紡績,織布,染色の生産工程をどのように内製化して輸入代替を実現したのかを丹念に分析し,企業家や職人,新しい技術の導入などが果たした役割を明らかにする。さらにペルシア,中央アジア,清などのアジア市場では,アルメニア商人やブハラ商人,山西商人などの近隣商業圏の既存の商業ネットワークを活用するとともに,各消費地のニーズにあったデザインを工夫して時代の変化に対応していく姿を描いて,工業化の辿った足跡を見事に解明する画期的業績である。
著者は従来の経済史が生産重視であったことを省み,年周期で営まれていた遠隔地貿易の流通構造や消費者ニーズにも関心を広げ,方法的には文献史料だけではなく,自然環境と人間の関係,民俗学で開発されたモノの研究,非文字史料(写真,絵画,モノ)の活用と,さらに各地域の経済圏を越えた跨境史,そして現地体験の必要性を強調する。

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