目次
序論
第1章 『理性論』の汎理性主義
第1節 『理性論』執筆の動機― ヘーゲルへの接近
第2節 『理性論』の人格批判
第3節 「共感」概念の両義性と「絶対的一性」の突出
第4節 「何かあるもの」の両義性とヤコービ評価の二面性
第5節 感覚の両義性と理性の神秘性
第2章 『死と不死』における「自然」の位置価
第1節 神のなかの「人格」と「場」
第2節 三位一体説の潜在化と神秘的汎神論――ベーメへの接近
第3節 魂の「目的」性と自然の「先在」性
第3章 唯物論的・人間学的転回の意味――哲学と宗教との関係
第1節 ベーメ・モメント
第2節 ライプニッツ・モメント
第3節 結論的考察――「人格」批判と「自然」の復権
付論 フォイエルバッハにとっての〈神秘的なもの〉
あとがき
参考文献
人名索引
欧文要旨
索引
内容説明
フォイエルバッハ(1804-72)はマルクス,エンゲルスの論評や「宗教批判家」または「唯物論者」として知られる。またヘーゲルとマルクスを架橋する過渡期の思想家とされ,彼自身の哲学は省みられずにきた。しかし海外では1970年代以降,未公開資料の発掘やあらたな全集の編纂が行われ,89年には国際フォイエルバッハ学会が設立される。宗教論,人間論,他者論,自然論,文化論など,いままで注目されなかった新たな領域の読み直し作業により彼の哲学的意義の発掘と再評価が進展した。
本書はそれら研究成果を踏まえ,彼の初期思想,特に「理性と神秘」を主題として,『理性論』と『死と不死』の両作品を中心にその思弁的アプローチの意義をテキストに即して明らかにした意欲的作品である。
「自然と人間」に要約される彼の「人間学的唯物論」は,経験論から生まれたものではなく,ドイツ観念論,とりわけヘーゲル哲学の内在的批判により獲得したものである。本書はフォイエルバッハ思想の全体像を捉えるためにも,19世紀ドイツ思想史における重要な転回(唯物論的・人間学的転回)を問いなおす上でも,さらには宗教分析,他者論,異文化交流,死生観など現代的問題を考察する上でも多くの示唆に富んだ業績である。