目次
一 竹取翁歌の幻想世界と現実
1 竹取翁
2 竹取翁歌の年代
3 時代背景
4 九人の仙女たち
5 作者
まとめ
二 日本琴(やまとこと)の贈物の意味合い
Ⅰ 古代の琴
1 考古学的知見から知る琴
2 文献に見る琴
Ⅱ 藤原房前への贈物
房前と琴
旅人と琴
房前への琴の贈物
房前の返信
まとめ
三 松浦川歌群の真意
1 松浦川とツツノオ神の出現
2 神名の変遷(大神→墨江大神→住吉大神)
3 作歌の誘因
4 離れ去る馬
5 神功皇后とツツノオ神
6 吉田宜の返書
まとめ
四 柿本人麻呂の七夕歌
1 中国伝説と比べる
2 出典不明七夕歌と比べる
3 人麻呂が奉じた神
4 離れ住む悲しみ
5 年に一度の逢瀬
6 持統三年までの作歌
まとめ
付記
五 七夕と大伴旅人
Ⅰ 妻の死と旅人の作歌
1 妻の死
2 松浦佐用姫歌群
Ⅱ 七月七日と七月八日
1 七月七日の七夕宴
2 七月八日の七夕宴
Ⅲ 旅人亡き後の七夕
1 相撲節会の定着
2 大伴家持と七夕
まとめ
六 高橋虫麻呂が見た大伴旅人の信仰
I 高橋虫麻呂が見た大伴旅人
1 「検税使大伴卿」
2 高橋虫麻呂
Ⅱ 万葉歌浦島伝が描くシマコ像
1 作歌年代
2 主要素
Ⅲ 旅人と虫麻呂とのつながり
おわりに
年表
索引
内容説明
「私たちの先祖は,何を信じ,心のよりどころにしてきたのか?」と問うたが,『古事記』『日本書紀』に残る神々の話は著者の心の琴線に触れてこなかった。『記』『紀』にはない信仰の形があったのではないだろうか。
大伴旅人(665-731)は,壬申の乱の功績により天武朝で重用された安麻呂の長子として誕生し,時代が豪族の連合体から急速に中央集権へと推し進められる中で,一族の長としてその時代潮流に直面していた。
『万葉集』の彼の作品は,最晩年の4年足らずの間に詠まれ,武人・政治家としての姿勢とともに,その人柄や信仰を浮かび上がらせるものである。彼が信じる神は一族の神であり,中央集権が確立する背景から旅人の歌を紐解くと,大伴一族の信仰が朝廷の神事政策に取り込まれていく過程が映し出される。そこには記紀成立以前からあった信仰の姿が残されていた。
旅人の作品からは弱い立場の者,卑しめられた者に寄り添う姿が浮かび上がる。その生き方は彼の信じた神の姿に似ているように思われる。惨めな思いをしている人に寄り添い,ともにあることを喜ぶ神,別れを悲しむ神である。本書では旅人の歌を通して古代人の信仰の姿とその時代背景を明らかにする。